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骨身にしみる(ひかくら)


俺はイヤホンが嫌いなんやけど、それはなんでかっつうと外界の音が普通に耳に入ってくるから。遮音性低い。カナル型とかでもまだ足りん。音楽聴くからには出来る限りその音だけ聴いてたい。だから、俺はいつもごっついヘッドホンをしている。多少値は張るけどまあしゃーない。っていう話を白石さんにしたら叱られた。

「家ん中とかやったらええけどな、外歩いててなんも聞こえんかったら危ないやろ」
「…………はあ、」
「はあ、やない!あからさまに不服な顔しよってからに」
「いやだって不服ですもん。平気っすよ、いままでなんかあったことないですよ」
「自分なあ、そんなんゆうて車とかに気付かんと事故ったらどないすんの」
「ないですて。俺間抜け過ぎやんそれ」
「……まあ光がそうゆうならええわ。もーなんも言わん」

でもほんま気をつけなあかんよ、と白石さんは釘を刺して、……くりーむ、…白石さんそれなんでしたっけ?(クレームブリュレラテ!)そう、クレームブリュレラテ。をひとくち飲んだ。いくら期間限定でものごっつうまい(白石さん談)からって410円てどないやねん。……そういえば店に入ってしばらく経つけど、色白な白石さんのほっぺたと鼻はまだ赤い。かわいい。

「光今日塾何時から?」
「えー……今日は7時からっすわ」
「そっか、ほなもーちょい時間あるな」

白石さんはにっこり笑ってクレームブリュレラテ(かみそうやわ)のカップを両手で包んだ。あったかいんやろな。つーか時間あるな、とかゆうて、まあ俺学校からちょー急ぎましたからね。HRさぼったからね。今日放課後暇あらへん?てメール入って、白石さんの来れる時間聞いて、俺それでええってゆうたけどほんまなら来れへん時間ですからね。白石さんは(多分)なんも知らずに、最近ほんとさむなったなーと言った。

「そうですね」
「この気温の日に冷たいもん飲んどるおまえが俺はさっぱり理解出来ん」
「俺猫舌ですねん」
「………まじでか」

あかんちょーかわいい……!と白石さんはテーブルに突っ伏した。なんやねんそれ。むかついたので、ものごっつうまいらしいクレームブリュレラテを飲んでみたけど俺にはあますぎた。うえ。

「あっま……」
「……光ー」
「はい?」
「ひーかーるーー」
「え、なんなんすか」
「塾なんていかんといて」
「……………は?」
「はよ高校生なって」
「白石さん、あの、」
「おれ、さむくて、もうがんばれん」


ひかるがおらんとがんばれん。
一緒にいたって、ばいばいしたあとのこと考えたら寂しくて死にそう。
ひかるがおらんとがんばれないんよ。


白石さんは突っ伏したままそう言って動かなくなった。え、死んでへんよな?そっと髪に指をさしいれると、ほのかにあったかくてほんのり冷たい。白石さんは顔をずらして俺をみた。

「白石さん、顔真っ赤やわ」
「……やかましい」
「あと、泣きそう」
「……ひかるのあほ」
「白石さん」
「なに」
「俺、年下でごめんね」

卒業式のときもそうやった。卒業式のときも泣かしてもうた。俺が年下なばっかりに。白石さんと同じ高校行くつもりやけど、多分高校の卒業式もこの人は泣くんやろーな。それで俺は大学もきっと追いかける。東京あたりで一緒に暮らせへんかな。あかんかな。

「ううん、おれ、…俺こそ、ごめん。先輩なのに、弱音吐いてもーたね」
「ええっすよ。俺うれしいもん」
「はあ?なにが?」
「白石さんてそゆこと人によう言わへんでしょ。俺にはゆうてくれるんやなーって思うとうれしいんです。頼ってもろてるなーって」
「ひかる………」
「白石さんて俺のことめっちゃすきやなーとかね」

そういって笑ってみせると白石さんはようやく顔をあげた。

「すきやよ」
「……………」
「だから、ね、はよ高校生なって」
「……善処します」
「政治家か!」



今日は塾はさぼろう。
さぼって、ずっと白石さんの側にいよう。
善処はするけど高校生になるのを早められるわけもないし、だからせめてもの罪滅ぼしに、今日の残りの時間は全部白石さんにあげよう。と思った。

「白石さん」
「ん?」
「俺も、」




白石さんがおらんとがんばれん。



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