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続・卒業(ひかくら)


まあ式にはなんの滞りもなく、あとはもう校歌を歌って終わりだ。なんやあっけないなー……も少し泣けるかと思っとった。卒業式を終わります、の言葉を合図に卒業生は一斉に立ち上がる。在校生の座る、ホールの後部座席を通って後ろのドアからはけるのだ。

「あっ、千歳え!おめでとお!小春も!」

聞き慣れた声に顔をあげるとやっぱり金ちゃんやった。知った顔をみつける度に声をかけて、おめでとうと声を張り上げている。金ちゃんは謙也の次に俺をみつけて、白石もおめでとうと叫んだ。おっきく手を振って、おおきに!と笑顔で返す。あかん金ちゃんええ子過ぎる、ちょっと泣きそう。視線をまえに戻すと、数メートル先の、俺の歩く通路側のいちばん端の席に財前がおった。…あれ?財前と金ちゃんの席がどこかは練習んときに確認したはず……あれ?!

「財前そこの席やったっけ?!」
「変わってもろたんですわ」

思わず声をあげると、財前はちょっと笑ってそう言った。相変わらずかっこいい。話したいけど立ち止まるわけにはいかへんので、そのままの速度で歩く。つか変わってもろたってどういうこと?なんで?……お、俺がここ通るから?!心臓ばっくばくで財前の横を通り過ぎようとしたら、一瞬袖を掴まれた。

「っ、ざ、」
「…おめでと、白石さん」

財前は寂しそうに(!!)笑って手を離した。しばらく固まってたけど、後ろの奴に押されて慌てて歩きだす。心臓がうるさいくらい早くて、あーもう顔絶対真っ赤や!視界が歪んだ、思たら涙が溢れていた。もーさいっあくや、なんなんあいつ……!

「あ、白石やっと来た……白石?!」
「けん、や、」

謙也が出口で待っててくれていた。

「…なに、財前になんや言われたんか?」
「う…っ、おめでと、て、」
「……そか」

謙也に構ってもらっとるうちに落ち着いたので、だらだら話しながら部室に行った。もう俺ら以外は集まってて、入った途端にもみくちゃにされた。それはええねんけどな、金ちゃん、自分少しは加減てものを覚えなさい。ただひとり、財前だけは騒ぎに加わらず、でも楽しそうに俺達をみていた。

「なんや白石目え真っ赤やなー!」
「しゃあないやろ寂しいもん!」
「…あら?でもくらりん式中は泣いてへんかったよねえ」
「あー、俺もみたと。たるそーにしとったばい」
「それ千歳には言う資格ないで……」
「あれや、金ちゃんらへんからきてん」
「えーほんま!なんやうれしいわあ」

みんなでわいわい話して、写真撮って、アルバムに寄せ書きして、名残惜しいけど解散になった。春休みの練習に必ず遊びに来る、と金ちゃんに約束して、みんな部室から出ていく。財前も腰を浮かしたので、いましかないと思って声をかけた。

「あ、財前、」
「はい?」
「いま大丈夫?ちょお話あんねんけど」
「や、ええっすよ」

ちょうど出ていくとこだった謙也と目があった。謙也が小さく頷いてガッツポーズをしてみせたので、震える手を隠して笑った。あかん、受験以上の緊張や。

「で、なんですか、話て」
「あー、うん、えっと………」

いざ二人きりになると何話したらええかわからん。ちゅーかあかん無理や!緊張して手も足もがくがくやし口も回らん。しゃーないので学ランの第2ぼたんを千切って無言で差し出した。財前の顔がみれん…!

「…なんですの、これ」
「なんも言わんともらって」
「せやかてこれ第2やないですか、俺やのうて、」
「ええから!」

また涙が零れた。声が震えるのも構わず叫ぶと、財前がため息をついて俺の手を取った。思わず顔をあげたら苦笑しとる財前がおって、俺はますます涙が溢れる。

「ほんならありがたくもろときますわ」
「ざい、ぜん、」
「…あ、でもどーせなら学ラン下さいよ」
「………はあ?!」
「ね、交換しましょ。まあ俺のちょお小さいかも知らんけど、もうかめへんでしょ」
「や、そらええけど、なん、なんで?俺あげたの第2ぼたんやよ?き、………気持ちわる、ないの」
「……自分で言うて傷付いとったら世話ないっすわ」

財前はまた苦笑すると学ランを脱ぐ手をとめた。まえ全開の学ランが色っぽい……てちゃうやろ俺!あたふたしていると、財前にほっぺたをつままれた。心臓が早鐘を打つ。

「白石さん」
「は、はいっ?」
「なんか言うことあるんとちゃいますか」
「っ、え、」
「俺に言うこと。じゃあ質問変えますけど、白石さん、なんで俺にぼたんもろて欲しかったん?」
「っう、財前……!」
「言うて、白石さん。お願いします」

俺の頬を包む財前の手が震えとる。眉尻を下げて、いまにも泣きそうで、……こんな財前みたことない。どうしよう、言ってええんかな、ずっと、ずっとすきやったって。…でももしだめでも、もう卒業やしな。会いたいと思わな会えなくなる距離になる。俺は覚悟を決めた。

「……すきやった、ずっと」
「白石さん……」
「ごめんな、ほんまにずっと、ずっとすきやったんよ…すき、すごいすき」
「…言うの遅いっすわ、白石さん」

財前の顔をみれなくて、うつむいて泣きながら告げたら、下からすくいあげるようにキスされた。………キス?呆然として財前をみると、財前は泣きながら笑っていた。

「ほんま、なんで今頃言うねん……こんな、もう、お別れする日に」
「ざ、財前、」
「俺かてすきでしたよ、白石さん」
「……………え?」
「俺かて白石さんのことすごいすきです」

そう言って財前は俺を抱きしめてくれた。うそ……嘘や…………!もうほんまうれしくて涙が止まらない。俺今日泣きすぎや。まあ全部財前関係やけどな。財前の肩に顔を埋めたら、耳にキスしてくれた。やばい俺しあわせで死ぬんちゃう?

「財前、俺、卒業してまうけど、」
「……はい」
「…俺と、付きおうてくれる?」
「…愚問っすわ、白石さん」
「っ、財前、だいすき…!」

散々キスして抱きしめあって、涙が収まる頃には日が暮れはじめていた。携帯をみるとかなり着信があって、謙也からはうまくいったみたいやな、なんてメールが来てて、あー俺ええ友達もったなーなんて、もう何もかもしあわせに思える。俺ほんま現金やな!

「なあ財前」
「なんすか?」
「…ひ、ひかるって呼んでもええ?」
「ええけど、蔵之介さんて長いから俺は白石さんて呼びますよ」
「んな…!愛がない愛が!」
「ええんすよ。大事なときだけ名前で呼びますよって」



そう言って財前は笑った。
あかん、この笑顔が今日からは全部俺のもんやなんて、もう俺やっぱりしあわせ過ぎて死ぬと思う。



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