[携帯モード] [URL送信]
卒業(財前をすきな白石と謙也)


「3年間早かったなー…」
「白石、それ昨日も言うてた」
「やってそう思わん?それにいま言わんと他にいつ言うねん」
「まあなー…でもほら、自分とおんなじ高校行けるやん。だからそれでええねん、俺は」
「謙也…!なんやおまええらいかわいいやっちゃな!」

そうは言うても、こうやって四天宝寺中の制服着て3年2組の教室でじゃれるんは今日で最後だ。卒業式当日、女子はヘアスタイルの確認に余念がない。トイレと教室行ったり来たり、それよりもっと別れを惜しめばええんちゃうかなあと思う。

「あ、せや、式終わったら部室来てって、金ちゃんが」
「ああ、俺も聞いたで。なんやもう泣きそうやったな」
「俺も釣られそうやったわ…まー白石は引退んときに泣き切ったもんな!」
「……やかましいわ…!」
「うわっ、うわ、白石顔赤い!きもい!」
「自分が思い出させるからやろ!」

全国が終わって部活を引退するとき、みんなのまえで部長の引き継ぎをした。部誌を財前に手渡して、これから頼むで、って笑って……かっこええ先輩のまま終わろうと思ったんに、財前が、あの財前がやで?直角に頭下げて、いままで聞いたことないような大声で「いままでありがとうございました」って言うから、必死で堪えてた涙がだくだく溢れてしまった。それから、部長の仕事教えなあかんから二人で部室残って、でも俺はまだ泣いてたから、なんと財前が、財前は、「お願いやから泣きやんで下さい……俺まで釣られて泣いてもうたらかっこつかへんやないですか」と言って、

「かた、肩抱いてくれたんやで!あの無愛想な子が!赤くなるやん、そりゃ赤くもなるやん!」
「もう何十回と聞いたわボケ!」
「百回でも聞け!」
「……あの、ごめん、白石くん、ちょっとええかな」

いきなり女子に話しかけられた。びっくりした……平静を装って微笑むと、彼女は頬を染めて、

「ごめん、式終わったら絶対無理やからいま言うんやけど、ぼたん、」
「あ、ごめん、無理」
「…………へ」

即答すると謙也に殴られた。もっと言い方ないんかい!て、勿体ぶったら却って嫌味やろ!あげたい奴おんねん、というと、泣きながら去って行った。ちょっと胸が痛むけど、もう何回と繰り返したやり取りなので感覚が麻痺してきた。あかんなー俺。

「あー、泣ーかした」
「もうなんかあれや、他人のこと考える余裕ないねん、いま」
「なんつって渡すんよ」
「……わからん…ば、場面?」
「……まあ玉砕したら慰めたるしな!」

謙也はにっかり笑った。ので取り敢えず殴っておいた。そうこうするうちに担任が入ってきて、時間やでー!と言った。みんな笑って廊下に並びはじめる。

「あーあかん謙也と離れたない不安定になる不安定になる…!」
「自分ちっとはしっかりせえや!」

式終わったら一緒に部室行こな、と約束して番号順に並ぶ。意識はもう式のあと、更に部室でみんなとお別れしたあと、財前をどないして誘うかなとか、なんて言ったらぼたんもろてくれるかなとか、もうそんなん。謙也自分なんで忍足なんて名字やねん!志村とまでは言わん、せめて瀬川とか……!

「うわーんけんやあー!」
「こら白石!やかましわ!」
「せやかて謙也と遠いんですもん…!」
「…忍足、なんとかせえ」
「…ほっときゃええっすよ」




項垂れていたら、さっきぼたんちょーだい言うてきた女の子が、大丈夫?て飴くれた。うれしかったので、袖口のぼたんをあげたらまた泣かしてしまった。



あきゅろす。
無料HPエムペ!