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続・美しいひと(やぎゅ♀におと♀柳)
れんがちゃんの「美しいひと」の続きです
先にそちらを読むことをお勧めします。



「どうした仁王。浮かない顔だな」


俺はこの女が死ぬ程苦手だ。


「……誰のせいじゃ」
「俺だな」
「わかっちょるならはよ往ね」
「なんだ、人が折角己の問題点を改善しようとしているのに」
「…おまえのは面白がっとるだけじゃろ。如何に何でもわかるわ」
「そうか。甘く見すぎていたかな」

全く喰えない野郎(…違うか。アマ?)だ。こんな女、柳生さんの友達じゃなかったら絶対口も利かんと思う反面、俺が柳生さんのことすきじゃなかったらこんなに揉めないだろうとも思う。

「昨日な、放課後柳生が日誌を書くのを待っていたんだ。俺は窓の縁に座っていて、夕日がその窓から差して教室を照らしていた」
「…………………」
「そうしたら柳生が、そこから退けと言うんだ。何故だと思う?」
「…知るか」

柳はふっと笑った。嫌な顔だ。

「俺の肌が焼けてしまうから、と」
「………は?」
「美しい俺の白い肌が焼けてしまうから」

知らず知らず右手で掴んでいた左腕に爪を立てていた。ぎちっ、と嫌な音がした。柳はそれをちらりと横目にみて、傷がつくぞ、と言った。その顔は酷く愉快そうに歪んでいた。吐き気がする。俺はどうしたらいいかもわからぬまま教室から逃げ出した。



(美しい、)
(柳が、)
(柳の白い肌が、)
(美しい柳の美しい白い肌が、)
(柳生さんが、)
(柳を、)
(柳の白い肌を、)
(美しい、って、)

正直俺は柳生さんが何故俺をすきなのかがさっぱりわからない。近くに(認めたくないけど)あんなにも綺麗な女がいながら、それでも俺をすきだと言う。俺は柳に比べたら、粗野で、がさつで、下品で、平凡で、頭も悪くて、多分あの女に勝るところなんて何ひとつない。それでも柳生は俺をすきだと言う。俺にはそれで十分だった。俺にかわいいとか綺麗とかいろいろ言ってくれる。俺はそれでしあわせだった。

(でも、だからこそ、柳生さんの気持ちが離れたら、俺はもう、終わりやし)
(てゆうか、柳が美しいって)
(柳生さんは、もしかして、もう、)

「か かてるわけ ないじゃろ…!」

恋敵があんな色気の塊みたいな女なんてあんまりだ。二人が友人関係にあるときから嫉妬と不安で死にそうだったのに、柳生さんの気持ちが一度向こうに向いたらもう俺に帰ってくるわけがない。死にたい。今更涙がだくだく出てきた。休み時間の廊下、人はたくさんいる。恥ずかしいけどとまらなかった。俺はしゃがみこんでしくしく泣いた。

「っ、う、やぎゅうっ……!」
「仁王さん?」

独り言にいらえがあって、死ぬ程驚いて顔を上げると柳生さんがいた。びっくりした顔をして俺に駆け寄って、しゃがんで俺の顔を覗き込んで、どうしたんですか、と訊いてくれた。映画みたいだ。えっこれ運命?とか頭悪いこと考えていたら、

「どうしたんだ、仁王」
「や、なぎ……」

やはり現実はそうあまくなくて、俺の天敵であるところの糸目も一緒にいたのだった(大体どうしたんだとか白々しいにも程がある。死ね!)。と、柳生が大きくため息をついた。思わず肩が揺れる。

「どうせまた君が何か言ったのでしょう、白々しい」
「人聞きが悪いな。昨日の放課後の話をしただけだ」
「昨日の放課後の話?」
「……柳生さんが柳のこと美しいって言ったって本当?」
「……ああ」

柳生さんは合点がいった顔をして、確かに言いましたよ、と言った。もう死のうかと思った。だけど柳生さんは柳を睨んで、

「もしかしてそれしか話していないんですか?」
「当たり前だろう」
「だから君はだめなんですよ」

柳に冷ややかな視線を向けてそう言い放つと、柳生さんは俺の頭をよしよしと撫でた。俺が頭をぶんぶん振って拒んでも、めげずに俺の髪を構った。

「っやだ……さわんな…!」
「嫌です」
「なっ…どおせ柳のがすきなんじゃろ!」
「誰がそんなこと言いましたか」
「だって……だって」

思わず、柳のが俺より綺麗だもんと言うと、柳が柳生の後ろで吹き出した。柳生は柳をちらりとみて不機嫌な顔をして、そんな人間にみられていたなんて心外です、と言った。

「仁王さん、私は貴方の方が柳さんより何倍も綺麗だと思いますよ」
「………へ」
「あんな見た目だけの女に貴方が負けるはずがないでしょう」
「おい柳生、おまえさっきから俺につらく当たり過ぎじゃないか」
「当たり前です。仁王さんを泣かせるような人にやさしくするいわれはありません」

柳生はきっぱりとそう言うと、ここでは目立つし邪魔になりますから移動しましょうと言って立ち上がり、俺の手を取った。腕と目線が自然に持ち上がる。

「………柳生さん」
「はい」
「俺んことすき?」
「すきですよ。世界でいちばん」
「!!!!」

その瞬間俺は全てを許した。いままで柳に言われたこととか、された仕打ちとか、柳生さんの柳に対する態度とか、二人の明らかに行き過ぎた友人関係とか、柳生の鈍さとか、それにつけ込んだ柳の嫌がらせとか、俺はもう全部水に流せると思った。それぐらい感動した。だって柳生さんが俺のことすきなんよ?!世界中の人に言いふらしたい。もうしあわせ過ぎて死にそう。そうだきっと俺の死因はしあわせだ。確定!あまりにも感極まったので思わず柳生さんにキスしたら、柳に頭をはたかれた。やっぱりいつかぶっ飛ばそうと思った。でも柳生さんは笑っていたのでやっぱり俺はしあわせだった。死ぬ。


「仁王さんは私のことすきですか?」
「あいしとぉに決まっとるじゃろそんなん!!!」
「……ありがとうございます」


柳生さんにもキスされて初めて、俺はここが廊下だということを思い出した。



あきゅろす。
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