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傷心のおとめさぎし(おとめさぎしの続き)


「仁王、これ」
「は?なにそれ」

ブンちゃんに薄いぴんく色の封筒を手渡された。

「加藤ちゃんから。おまえに」

加藤ちゃんというのは最近ブンちゃんと仲のいいクラスの女子だ。

「……なん、加藤がすきなんはブンちゃんやなかったんか」
「あいつがすきなのは仁王だよ」

あいつとか。な。正直俺は二人の関係を勘ぐってもう夜も眠れないくらいだったので、そこがはっきりしたのはうれしかった。でもなにもブンちゃんが俺んとこ持って来なくても。

「俺はずっと相談されてたの」
「はは、そう。俺なんかよかブンちゃんのがずーっと男前なんにな」

言ってブンちゃんの目の前で手紙をびーっと二つに切り裂いた。ブンちゃんの目は驚きで見開かれている。半分半分になったぴんく色を、二つ重ねてブンちゃんの胸に突き返して薄く笑った。

「にお、」
「悪いけど興味なか」

後ろでブンちゃんが呼ぶのを無視して、携帯だけ持って教室を出た。柳生さんに、泣きそうだからさぼる、もし暇なら返事ちょうだい、とメールを送る。ぱたんと携帯を閉じて屋上に向かった。屋上に行く途中柳生さんのクラスのまえは通るけど、同時に真田もいるので迂濶にさぼるとかそういう話が出来ない。

今日は天気がいいので屋上は大層気持ちよかった。柳生さんから返事が来るんじゃないかとゆう一縷の望みのために、携帯のモードをサイレントからマナーにした。薄く雲の張っている青く澄んだ空をみていたらやっぱり涙が出てきた。一人だし、何を気にすることもないと思って別に拭ったり我慢したりしないでいたら、唐突に携帯が震えた。メールだ。


from:柳生さん
sub:Re:

屋上ですか?


たった一行だけの返信だけど無性に胸があったかくなって、ますます涙が出てきた。うん、とだけ打って返信する。しばらくすると、階段を駆け足で上る音がした。ドアが控えめに開く。

「……柳生さん」
「はあ、は、っ……にお、くん、」
「え、なに、ずっと走って来たん?」

柳生さんはぜえはあ言いながら頷いて、俺の横にへたり込んだ。やさしく背中を擦ると、幾分か落ち着いて、すいません、と笑った。

「大変だったんですよ」
「え?なにが」
「まず仁王くんのメールをみたとき理科実験室にいたんです。それで、距離もあるし、真田くんもいるし、どうしようかと」
「……………」
「結局真田くんに嘘の用事を教えて、その隙に飛び出して来ました。共通の友人に、真田くんが帰って来たら謝罪と共に「仁王くん」とだけ言ってくれるよう頼んでは来ましたが」
「柳生さん………」
「次会ったら大目玉は確実ですねえ」

で、貴方はどうして泣いているんですか?なんて柳生がやさしく笑うので、俺は思わず柳生さんに飛びついた。柳生さんの手がぽんぽんと俺の頭を撫でる。落ち着いたようにみえてもまだ柳生の心臓は少し早くて、俺はますます涙がとまらなかった。

「ブンちゃんが、……ブンちゃんに、他の女子からの手紙、渡され、…っ、俺、おれは、いままでそゆことあっても、勝手に捨て、たり、しててっ……」
「仁王くん………」
「おれ、俺も、悪かよ、けど……っ!ブンちゃんは俺の気持ちなんか知らんけど………!」
「……そうですね。仁王くんのしたことは悪いことです。貴方を信頼して丸井くんへの手紙を託した皆さんの気持ちを裏切っているわけですから」
「っ、うん……」
「ですが、それが恋というものでしょう。その気持ちは確かに汚いですが、仁王くんが他人に比べて特別汚いわけではありませんよ。私もきっと、仁王くんのようなことしてしまいますから」
「でも、でもっ……ブンちゃんにばれたら、嫌われる……!」
「まあ丸井くんが貴方に恋愛感情を持っているかはわかりませんが、そんなことで友人を嫌いになるような人ではないんじゃないですか、彼は」
「そ…かの、」
「少なくとも私の目にはそう映ります」
「ん……そうじゃな。ありがと柳生、大分落ち着いた」

ぎゅうっとしがみついていた手を緩めて隣に座り直した。柳生は俺の顔を覗き込むと、ポケットからハンカチを取り出して俺の目尻をやさしく拭った。俺は柳生の、仲のいい友達だからと言って間違いを肯定しないところがすごくすきだった。柳生はいくらでも寄りかからせてくれるけど、いつもちゃんと現実を教えてくれた。

「……俺、柳生さんのことすきになればよかった」

小さく呟くと柳生さんはものすごく顔をしかめて目を逸らした。

「…なんなん、その顔」
「……私は、貴方との関係が、恋人同士なんていう終わりを見据えたものになるなんて死んでも嫌です」
「……柳生さんっ!」

俺はまた柳生さんに飛びついた。飛びついて、飛びついた後に、それっていまの俺の葛藤とかを全部否定してるんじゃ……とゆうことに思い当たった。

「そんなことないですよ」
「いやだって……」
「もし丸井くんに振られたらちゃんと慰めてあげますよ」
「……………」
「仁王くんが誰に何回振られても、一生ずっと側にいて慰めてあげます」
「……やぎゅ、」
「ひとつくらい、いつでも安心して帰れるところがあったほうがいいでしょう?」



そう言って笑った柳生がやさし過ぎて、俺はまた涙をこぼした。



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