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成長しないね(ブン太による仁王ときどき柳生とテニス部の考察)


仁王は他人が苦手だ。


1年の頃はクラスが違かったから、俺は最初テニス部の仁王しか知らなかった。髪型と立ち居振る舞いで悪目立ちはしてたけど。髪の色が派手、っていうところから、別に仲良くない頃からわりとセットでみられていた。話すようになったのはそれからだ。他人に立ち入らせないところはいま以上に顕著で、でも気を許すとどこまでもやさしいところは猫みたいだなあと思った。

俺の学年には幸村くんというハイエンドな天才と、真田と柳という努力による土臭い天才がいた。でも真田も柳も偉そうだったりはしなかったし、幸村くんが偉そうでも何故か嫌味じゃなかった(まあ、あくまで俺的には、だけど。幸村くんはガチで天才だったし、でも誰よりも部のことを考えてたし、なによりやさしかった)から、俺は他の卑屈な同学生とは違ってその3人とも仲が良かった。だから仁王もなし崩し的にその3人と仲良くなった。

1年の頃仁王はひろしと同じクラスで、俺はジャッカルと同じクラスだった。ジャッカルとは部活も一緒だったし、俺達はすぐ仲良くなって俺はジャッカルに面倒をかけ倒した。仁王はその頃からひろしと仲が良くて――そこらへんの詳しい事情は俺は何も知らないけど。だってひろしはその頃まだテニス部員じゃなかったから。仁王の話に登場する他人は、テニス部員を除けばひろしくらいだった。

2年のあたまぐらいでひろしが入部してきた。俺自身は何も思わなかったけど、またごちゃごちゃうるせー野郎もいるんだろなーって思った。そしてひろしはテニスが結構上手かったので、やっぱりまたいろいろもめて、でもそーゆうのは仁王と幸村くんと柳と、一部のまともな3年が大体片付けた。何よりもひろしはそーゆう一切を気にしなかったし、テニスが上手かった。仁王は、柳生のそういう周りに流されないところがすきなんじゃと言って笑っていた。ひろしは仁王にスカウトされてテニス部に入部したのだ。ひろしは堅そうにみえて意外と楽しいやつで、俺はすぐ仲良くなった。だからひろしなんて呼んでる。

3年になって、俺は仁王と同じクラスになった。同時に、ひろしと仁王は違うクラスになった。クラスわけの表をみて呆けていた仁王の横顔は多分ずっと忘れない。と思う。そんだけ笑えたし、そんだけ絶望的だった。仁王は俺の隣にいて、逆隣にはひろしがいた。ひろしは仁王よりずっとずっと冷静で、俺を見下ろすと眼鏡をくいっとあげて、丸井くん、仁王くんをよろしくお願いしますと言った。

そしていま、俺はひろしのその台詞の重みを身体全体で実感している。

ひろしに何を言われたのか知らないけど、仁王は俺に自分の性質を教えた。何かを言われたのは確実だ。じゃなきゃこいつが自分を晒すわけがない。

(まあみててわかるだろーけど、他人が死ぬ程苦手なんじゃ。ブンちゃんはよか。柳生さんもすき。幸村も真田も柳も平気。でもクラスメイトはだめ。無理。ひとつの部屋に40人もヒトがいるだけで死にそう。吐きそう。大丈夫な人が傍におらんと俺もうあれなの、だめなの、心閉ざすけぇ。冷たくなる。限界なんよ。じゃけぇブンちゃん、なるべく俺と一緒におってくれんかの?)

あのいつもの人を喰った笑みを浮かべようとして失敗したみたいな笑顔の仁王をみたら断れなかった。つーか仁王のこと普通に嫌いじゃねえし。去年まではひろしがやってた仕事が今年は俺担当になったっていう、ただそれだけ(と思っていた、そのときは。甘かった)。ひろしにも自分で頼んだの?って訊いたら、柳生さんにはばれたんじゃ、なぜかと苦々しげに言っていた。

しばらくはうまくいっていた。俺と席が離れているのが不満だったようだけど、俺は密かに(俺はひろし程あまくはないぜ!)とか思っていて、仁王が本当のまじにぎりぎりになるまで構いに行ってやらなかった。本気で殴られたりするけど、多少厳しくいかないと慣れることすら出来ないだろうと、俺なりに考えてのことだったんだ。ただ一度、もし誰ともクラス一緒になんなかったらどーするつもりだったんだよ、と訊いたとき、直談判か退学しかなかね、と真顔で言われてちょっと戦慄した。

うちのクラスの席替えはくじ引き制だった。そこに生徒の自由意思はない。のに、HRで担任がくじの入った箱を抱えて教壇に立った瞬間、仁王は高々と挙手した。そんなことしてる仁王を俺は初めてみた。嫌な予感がした。仁王は、言うに事欠いて、

俺はブンちゃんの隣か前か後ろの席がいいんですけど

と少しずれたイントネーションながらはきはきと述べた。クラス中が呆気に取られた。俺は仕方なしに立ち上がり、身を乗り出すようにして担任をみつめている仁王の頭をぱしんとはたいた。仁王は俺をみて、なん、ブンちゃんは俺が死んだり学校来なくなったりしてもええの!と言った。クラス中が青ざめた。特に担任が。俺の中の柳生の株はどんどん上がっていった。2年もこいつを庇ってきたなんて尊敬に値する。俺は仁王の頭をよしよしと撫でてやりながら、せんせえお願い、俺と仁王だけどこの席でもいーから近くにして、と頼んだ。仁王はこんなかで俺しか受けつけないんだって、と言った。仁王の心の糸はすっかり切れたようで、ただうつ向いて俺のセーターの裾を掴んで立っていた。

結局仁王のやばさが功を奏したのか、俺と仁王は隣どうしの席になれた。それから仁王はずっと安定していて、他のクラスメイトにもにこやかに対応している。よわっちい詐欺師もいたもんだな、と笑うと、俺は柳生さんがおったら無敵じゃよ、と仁王は言った。あの人を喰った笑みだった。




おまえら将来のこととか少しは真面目に考えろ。



あきゅろす。
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