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口直し(ブンやぎゅ)


急に携帯電話が震えて机のうえで暴れだした。少し驚いてディスプレイをみると、着信履歴にいちばん多い名前がちかちか光っている(ちなみにメールはわりと少ない)。かちりと通話ボタンを押した。

「ほい、どーした」
「いまどこですか」
「どこって……普通に家にいるけど」

一緒に帰ろーっつったら断ったじゃん、と告げると比呂士は少し落ち着いたようだった。そうでしたね、と一拍おいてから、

「いまから伺ってもよろしいですか?」
「……へ?なんで?」
「……………」
「え、あ、別にいいけど!だめじゃないけど!」

ぷつ、と音を立てて電話が切れた。びっくりして一瞬呆けていると、階下からぴんぽん、とチャイムの音が。 母さんが出ようとしたのに速攻で追いついて、俺のダチだから!って玄関まで走った。

「っひろし!」
「……こんばんは」

比呂士は俺の勢いにちょっと目を見開き、それからにこりと笑って首をかしげた。身長が177もあるのにその仕草が似合う人間てなかなかいないと思う。

「で、どーしたの?あがる?」
「……御迷惑ではないですか?」
「ぜーんぜん!母さん比呂士のことすーげえすきだから。めし食ってく?」
「…では御言葉にあまえることにします」
「うし!かーさーん!比呂士来たー!」

叫びながらリビングに向かう。案の定母さんはすごく喜んで、ぜひ夕飯召し上がって行って!はい、ありがとうございます。お気遣いなく、なんて、だから比呂士は保護者ウケがいいんだ。こないだ仁王と一通り議論した。比呂士は弟とかが飛びついてくるのとかにはにこやかに応対してたけど、俺の部屋に入ってドアを閉めたら急に表情をなくして立ち尽くした。かばんを持つ手が力なくぶらさがっている。

「…ひろ」
「………………」
「ひろ、取り敢えず座れよ」

そう言って比呂士の腕を取るといきなり抱きつかれた。不本意ながら俺はこいつより13センチ程背が低いので、俺の肩に顔を埋める比呂士の首は大分不自然に曲がっている。ごめんね。

「ひーろーしー、どしたんだよう」
「……まるいくん」
「んんー?」
「丸井くん、丸井くん、まるいく、…っ」
「…なに泣いてんの、ひろ」

言わなきゃわかんねえぞお、と言って背を撫でると、比呂士はやっと顔をあげて、と思ったらキスされた。涙で濡れた唇はちょっぴりしょっぱい。ていうかお互い目をあけたままのキスってちょうえろい…じゃなくて!比呂士は俺の唇をちろりと舐めたあと口を離し、またうつむいてしまった。こんにゃろう。

「ひろおー、なんかあったのー」
「…今日、帰り御一緒するのをお断りしたのは、クラスの女子から呼び出されていたからなんです」
「……ほう」
「…私のことを、すきと、」
「比呂士はもてるなあ」
「断っ、た、ら、」
「ふむ」
「さいごに、キスして欲しいと、」
「…………は?したの?」

思わず平坦で温度のない声が出た。比呂士は肩を揺らしながらも頷き、聞いて下さいと泣いた。

「勿論私は嫌でした。キスというのはすきな人とするべきもので、私のすきな人は丸井くんだからです。でも私は、すきな人とするキスが、どれだけ心地いいか、しあわせか、知っています。丸井くんのおかげです。……それで、だから、彼女にキスすることで彼女が私への気持ちに整理をつけることが出来るなら、それも仕方ないことかと……だって、私丸井くんに拒絶されたら生きていく自信ありませんし」

あらあらなにかわいいこと言っちゃってるのこの子!なんというか、比呂士はよくも悪くもくそまじめで融通が利かないからよくこうやって悩むのだ。だってさ、その女の子の比呂士に対する気持ちと比呂士の俺に対する気持ちのどっちがでかいかとか、比べるべくもなくない?俺達が互いをどんだけすきかって話で。比呂士はな〜、半端にやさしいんだよな〜。だめな子!もうだいすき。

「……でも、したら、気持ち悪くなっちゃって」
「………へ」
「走って逃げて来てしまいました」
「ひ ひろしさいてい!」
「笑わないで下さいよ!」
「だーってさあ!も〜比呂士ちょーかわい〜〜!」

取り敢えず座ろーぜ、と言うと今度は大人しくベッドにへたり込んでくれた。やっと目線が一緒になった。くそう絶対いつか抜かしてやる……!

「で、なに、ひろしくんは俺にちゅーしてもらいにここまで来たわけ」
「……ええまあそうです。口直しに」
「あはは、かんわいいな〜もー」
「……だめですか?」
「んなわけねーだろぃ」


また目を少しあけたままキスした。ら、さっきとは違ってキスしながら目も合って、あーやべえ心臓ばくばくいってる。比呂士の胸に手をおいたら、ひろの心臓もばくばくいってた。しあわせだ。俺こうやって比呂士に殺されたい。




「比呂士、次俺以外のやつとちゅーしたら死刑ね」
「……丸井くんもですからね」
「やり殺すからね。腹上死だからね」
「……………………」








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