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なかよし(丸井と柳生とほんのり仁王)


3人共女の子です。同じクラス。
丸井さんが女の子ともなもなしています。


「すみません、御手洗いに行って来ます」
「んー。次移動じゃけ、はよ戻ってきんしゃい」

昼休み、食後に一人で御手洗いに向かいました。友人と連れだって、というのを極端に嫌う私のことを仁王さんはよく理解していて、いつもこうやって放し飼いにして下さいます。彼女のこういう、細やかな心遣いがすきだなあと思います。いちばん奥の個室のドアは閉じていましたが、特になにも考えずにその隣の個室に入りました。昼休みならもっと混んでいてもよさそうなものなので、運がよかったとしか思わなかったのです。スカートに手をかけた瞬間、どんっと隣から音がしました。壁を蹴飛ばしたような音でした。それにびっくりして私が動きを止めていると、微かな息遣いも聴こえた気がしました。もしかして具合が悪いのだろうか、そう思って声をかけようとしたときです。よく知る声が聴こえました。

「…おい、静かにしろよ」

そう言って喉を鳴らして笑う声は、普段から親しくしている丸井さんのものでした。私はわけもわからず立ち尽くしました。個室に、丸井さんの他にもうひとり誰かいるのだろうか?壁を蹴飛ばしたりして、静かにしろとたしなめられている、誰か。如何に鈍くとも、この歳になれば二人の人間がひとつの個室にこもってすることの察しくらいつきます。ましてや私は丸井さんのことを知っていました。彼女は、誰よりも女性的な体つきをしているにも関わらず、異常なまでに同性にもてるのです。丸井さんは、その性格を考えれば不思議ではないのですが、余程のことがない限り相手をしてやるそうでした。妊娠するわけもねーし、かわいかったら遊んでやるよ、と笑っていたのを憶えています。

「っ、……ぅ、んっ」
「……るせえな」
「だ だっ、て………」
「黙れよ」

よく耳をすませば、あの独特の水音まで聴こえました(気のせいかも知れません。何をしているかわかったせいの、錯覚かも知れません)。そこで私は、それが聴こえる程静かなのは不自然なことだとやっと思い当たりました。とはいえもう尿意はすっかりなくなっていたので、慌てて水を流し、流しながら、出るタイミングを計っていました。そんなもの、もう外しているに等しいのですが。ひきつれた、掠れた悲鳴が微かに聴こえて、今度は向こう側の壁からどんっ、と音がしました。水の流れが弱くなってきたので、いましかないとドアを開いた瞬間、

「!!!」
「…………………」

隣から出てきた丸井さんと鉢合わせしました。丸井さんは私をみて少し驚いた顔をすると、目を細めて人差し指を唇に当てました。慌てて口を押さえると、丸井さんはにっこり笑って、もうひとりを残したまま個室のドアを閉めました(丸井さんにすがるように伸びる腕が一瞬みえました)。そして自分の両手を見比べて、汚れていないほうで私の指先を取り、二人一緒に手を洗いました。そこに丸井さん以外の人間がいると、個室の中の彼女に知らせないためでしょう。そしてそのまま、丸井さんはわざと大きく足音を立て、私は抜き足差し足で御手洗いを出ました。5メートル程歩いたところで、ようやく丸井さんが口を開きました。

「いやー、柳生だったとはなあ」
「………すみません」
「ん?うん。つか謝るのは俺の方だろぃ」

ごめんな、と今度は完全に綺麗な手で私の手を握る丸井さんは、すっかりいつもの彼女のようでした。いいえ、と首を振ったきりうつむいていると、丸井さんは心配そうに、どうかした?と私に尋ねました。

「いえ……いえ、あの。お話は普段から伺っていましたけど、自分の友人がそんなことしている場面に遭遇してちょっとショックなだけです」
「………怖かった?」
「………少し、だけ、」

はっきり口にすると、ほろりと涙が零れました。丸井さんは眉を下げて少し困った顔をして、俺は柳生の知ってる俺のままだよ、と言って私を抱きしめてくれました。その温もりは丸井さんの言葉通り私のよく知るもので、私は安心してますます泣いてしまいました。

「わー柳生!やぎゅうっ、泣かないで!」
「はい……ご、ごめんなさ、」
「わーん柳生ごめん!ごめんね!」
「ちが…大丈夫、大丈夫ですから」
「やぎゅうごめんー!柳生泣いてると俺も悲しくなるから早く泣きやんで……!」
「ま、丸井さん!」
「…………二人して楽しそうじゃのう」

驚いて振り向くと、私と丸井さんとそれから自分の分、計3人分の教科書やペンケースを抱えた仁王さんが立っていました。当然のことながら酷く不機嫌な顔をしています。次は移動だから早く戻ってこいと言われたのを、私はたった今思い出しました。

「仁王ーーー!」
「ぎゃあ!なに?!なにごと?!てゆかなして二人して泣いとるんよ!」
「……ごめんなさい、仁王さん…いろいろあったんですよ」
「つーか俺はよしろって言うたよなあ」
「あー違うの仁王俺が悪いの!っていうか教科書ありがとう!」
「……別によか、柳生さんのついでじゃけん」
「ありがとうございます、仁王さん。あとで事情はお話ししますから」
「……ん。てゆかごめん、なんか俺だけ仲間外れみたいで寂しかっただけじゃから」
「「!!!」」


丸井さんは私と顔を見合わせたあと、うわあん仁王ごめん違う違うんだあのね偶然ね、と事の次第を廊下の真ん中で話し始めようとしたので、私は慌てて彼を止めました。そして仁王さんの耳元でいちばんの要点だけを囁くと、仁王さんは私をぎゅっと抱きよせてから丸井さんの頭をはたき、怖かったじゃろ、もう大丈夫やよと私に笑いかけてくれました。

「仁王さん……」
「あーなんかおまえらばっかりずるくない?!俺も混ぜろよ!」
「せからしか!ブンちゃんはそこらの女と遊んどったらええじゃろ」
「はあ?ばか言うなよ、おまえらのがいいに決まってんだろぃ」
「「…………………」」



そのあと3人でじゃれていて、結局授業には間に合わなかったので屋上でさぼってしまいました。たまにはいーだろぃ、と丸井さんが言い、今日2人共うち泊まりに来ん?と仁王さんが言ったので、私はどちらにも笑って頷いておきました。



あきゅろす。
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