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WHO CAN DENY(幸村と丸井)


俺達は今日で部活を引退する。やっぱり3年間、病気したりなんだりでがんばってきたからそれなりの感傷もある。ひとりで浸りたくて、昼休み、無人のはずの部室に向かった。聡い友人はありがたい。蓮二すき。鍵を差し込むと手応えがなくてびっくりしたけど、どうせ仁王あたりがさぼってるんだろうとあたりをつけてノブを回した。

「…………ブン太」
「あ、幸村くんじゃん」

意外にも、振り向いたのはブン太だった。いつものガムじゃなく棒のついた飴をくわえてて、部室にはあまい匂いが充満している。ブン太はにっこり笑うと、幸村くんも食う?とチュッパチャプスを差し出した。いちごみるく味。俺はプリン味派だ。

「ううんいい。俺プリン味しか食べないって決めてるから」
「………幸村くん、それ確実に人生損してるぜ」

それは俺が決めることだよ、と言うと、ブン太はけらけら笑って頷いた。読めない。ブン太のことは嫌いじゃないけど(これ、かなりの賛辞)ブン太の意味はよくわからない。精神的な構造の上辺は似てて、中身は似てない感じ。逆でもいいけど。

「てゆうか幸村くん何しに来たん?」
「……ブン太は」
「おれ?俺は片付けとさぼり」
「片付けって…一応今日の放課後まで使うじゃん」
「いやそらユニフォームとかはおいとくけど。俺のロッカーお菓子のストックいっぱいあるしさ、そーゆう系のゴミ多いし、そこらへんをいまからやっとこーと思って」
「どれどれー?…ちょっとためすぎでしょいくらなんでも」
「幸村くんも食うの手伝ってよ〜」
「じゃあポッキーちょうだい。細いほう」

あんがと!と俺にポッキー(極細)をくれるほうのブン太にお礼を言われた。ひょいと放られた箱をキャッチして封を切る。ひとりになりたかったんだけどなー。予定狂ったなー。まあポッキー食えたからいいか。

「幸村くんさあ、あれでしょ、ひとりでお別れ言いに来たんでしょ。部室に」
「………え?」
「そーゆう性格だよな。性格っつか、性質?っつーの?」
「そんなこと、」
「あるよ」

ブン太はにこにこしながら俺の言葉を遮り、じゃがりこ(バジル味)をぼりぼり食っている。どうでもいいけど飴と味混ざんないのかな。

「ないって。俺のことは俺がいちばんわかってるんだから、俺がないっつったらないんだよ」
「そらそーだな。だからさあ、嘘はいけませんよって話だよね〜」
「……なんかしつこいね、今日」
「だってなかなか二人だけのときってねえじゃんさ。人前では黙ってる俺の気遣いがわかんねーの?」

なんか変な汗かいてきた。このままだとぶち切れて殴っちゃうかも。やばいな。ブン太はまだにやにやしている。おそらく塩辛いであろう指先を舐めて、すうっと目を歪めた。かわいい顔して本当えげつないやつ!

「はは、こえーカオ」
「…うるさいよ。俺は俺のことをわかったように言われんのがすげー嫌いなの!」
「知ってるよ。俺幸村くんのそゆとこすげえスキ」
「はあ?なにそれ」
「幸村くんはさー、認めたがんねえんだよなー。自分の悪かったり弱かったりするところっつーか、そーゆーの」
「だからなに」
「別に泣いてもいいのに」

どくん、と心臓が波打った。

「な…に、俺は別に」
「幸村くんさあ、俺にはテニスしかないってゆってたよな」

ブン太はじゃがりこを食べ終わって(!)、飴をからから鳴らしながら笑った。立ち上がってロッカーを漁る。おおきめのポーチを持って戻ってきて、なにかと思ったらそれにはチョコやら飴やらがたくさん入っていた。チョコをひとつ口に放って、飴と一緒に噛み砕いたような音がする。

「テニス終わっちゃうな、幸村くん。まあ高校行ったらまたやるだろーけどさ、アハハ、幸村くんにはテニスしかねーのにな!幸村くん高校上がるまでなにして時間潰すの?」
「…………ブン太」
「悲しいだろ?寂しいだろ?いまはロッカーにも幸村って書いてあっけどさ、あと何時間かで剥がさなきゃだぜそれ」
「ブン太」
「幸村くんにはテニスやめたらなんも残んないんだろ?それがなくなるって、なあ、どんな気持ちなの」
「ブン太、殴られたいの」
「ちげえよ。天下の幸村クンいじめて遊んでんの」

殴った。ブン太はすぐ後ろにあった仁王のロッカーにぶつかって少しバウンドした。ブン太は(多分)口に少し残っていたチョコを飲み込んでから、口の端に滲んだ血を舐めてにやにや笑った。うわちょー不愉快。近づいてロッカーにばん!と手をついたらちょっと凹んだ。ごめんね仁王。ブン太は喉をひくつかせて笑っている。なんなのこいつ。

「ブン太おまえなにがしたいんだよ。わけわかんない」
「だから言ってんだろ、幸村くんで遊んでんの。ムキになっちゃって、幸村くんか〜わ〜い〜い〜」
「…調子乗るのもいい加減にしなよ」
「俺おまえみたいなやつが動揺するのみんのすきなんだ。だからつい構っちまうの。ごみんに」
「……サイッテー」

俺は基本的に表情を隠さないけど、にしても多分酷い顔をしている。ブン太は俺の顔をぐりぐりした目で覗き込んでまた笑った。みんな俺を酷いやつみたいに言うし自分でも多少自覚はあるけど、こいつの方がやばいんじゃないの?こんなに自分の思い通りにならないの久しぶりなんだけど。ため息をついたらいきなり頭を撫でられた。

「……何の真似」
「いい子いい子〜」
「…………」
「ア、ちげえよ?これはいじめじゃなくって、幸村くんいままでお疲れ様、強い子でいんのも大変だよねっていうアレだから」
「………おまえ、まじ、たち悪い」
「はは、ちょっと泣きそう?」
「………だれがおまえのまえで泣くか!」

ばっと立ち上がるとブン太がちょっと呆けて俺を見上げた。気分いい。昼休みが終わる5分まえだよーってチャイムが言っている。ブン太を(ちょっと意識的に)見下して口を歪めて笑った。

「泣くなら蓮二と泣くもん。ブン太なんかお呼びじゃないね!」
「………ア、そ」
「蓮二にちくっちゃお、ブン太がいじめるーって」
「えー!ちょ、フェアじゃねーだろぃ!大体おまえ殴ったじゃん!それでチャラじゃね?」
「は?全っ然足んないよ。おまえ俺がなんだかわかってんの?神の子だよ?」

あまりに酷すぎる俺の枕詞を引き合いに出すと、ブン太はちょっと目を見開いたあと盛大に笑ってくれた。ブン太は落とし所をわかってるからいいよな!教室に戻ろうとすると、ブン太が低い声で「幸村くんだって人間じゃんなあ」と言った。無視して出て行こうとしたけど気が変わって、半分開けたドアの隙間からブン太をみた。

「ブン太」
「んー?どした」
「高校でも一緒にレギュラーだから」
「………へ」

ぽかん、て言葉がぴったりのブン太の間抜け面をみて満足してドアを閉めた。すごい清々しい気分だ。最後にやっとイニシアチブ奪還に成功して、俺はもう笑いがとまらなかった。



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