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いろつや(におやぎゅと柳)


ベンチに座り込むと暑さがじわりと這い上がってきた。顔をあげて眩しさを注視するのが酷く苦痛だったので、かくんと首を倒して地面をみつめた。息が次第に整う。汗が一筋、ぽたりと染みを作ったのを機会に顔をあげた。コートでは、先程休憩!と真田くんが叫んだので、仁王くんと丸井くん、それから切原くんがじゃれ合って遊んでいる。暑くないのだろうか。ぼうっとみつめていると、隣に柳くんが座った。拍子にまた汗が垂れる。

「大分消耗しているな。大丈夫か」
「まあ、大丈夫かどうかと言われたら大丈夫ですけれどね」

今日はもう打ち合いやら試合やらは嫌ですねえ、と言うと柳くんは楽しげに笑った。彼は、今日は皆のデータ更新に努めるとかなんとか言ってコートに入っていないのだ。

「しかしおまえも成長したな。弦一郎にあそこまでついていくとは」
「あの人の体力はもう人外ですよ……」
「当然だ。毎日12キロの石を持って通学するような生き物だぞ」
「……悔しいとか悔しくないとかそういうレベルじゃないですね。自分が劣っていることに安心する日が来るとは…」

今日の柳くんの機嫌は大分いいようだ。饒舌だし、至極楽しそうな顔をしている。存外わかりやすい人なのだ。と、柳くんがこちらを向いて、私の頬にその長い手を伸ばした。

「柳くん?」
「汗が垂れてる」
「…はあ、まあ、私は人の子ですから」
「今日は天気がいいから。…しかし、おまえ本当に汗が似合わないな」

柳くんはにやにやしながら私のこめかみから頬に垂れた汗の滴を長い指で拭い、私の髪をくしゃりとかき回してから手を離した。その一連の行動が、なんとも、

「色っぽい………」
「は?」
「いえ、柳くんは何気ない仕草が艶めいているなあと」
「………………」
「見習いたいものです」

私は男ですから、と笑うと、柳くんは苦虫を噛み潰したような顔をして、柳生には言われたくないと呟いた。彼の発言の真意を測りかねてきょとんとしていると、うしろから誰かにぐいっと引かれて腕を回された。柳くんは更に顔を歪めている。

「……柳くん、どうかしたんですか?」
「おい柳生!無視すんな!」
「してませんよ、仁王くん…」
「…だから言ったんだ、おまえには言われたくないと」

私の首をがっちりホールドしている仁王くんの腕は汗ばんでいて、私の首もまた同じように汗ばんでいるので、大変滑りが悪い。ぎしっと音を立てて仁王くんの腕が私の肌を掠めた。

「おい参謀、なにうちの柳生に手え出しとるんじゃ」
「…………ああ、文字通り」
「……いまは化かし合いやっとるんじゃなかよ」
「わかってて言ってるんだ。……柳生」
「はい?」
「……男だろうと、おまえからみた俺のように艶めいてなかろうと、この馬鹿はおまえ一筋のようだぞ」
「!!!」
「よかったなあ柳生」
「ちょ、艶めいてるってなんなん!」
「だから、柳生からみた俺が」
「糸目はちょお黙りんしゃい!柳生っ!」
「……もう死にたい………」

まさか真意が柳くんに伝わっているとは思わなかった。仁王くんは茫然自失な私の襟元を掴み、こん糸目なんかより俺んがよっぽどセクシーじゃろーがーとか喚いている。なに恥ずかしいこと言ってるんだろう………ずれにずれた眼鏡を押し上げて仁王くんをひき剥がした。

「っやぎゅ、」
「貴方がセクシーだろうがセクシーじゃなかろうが男だろうが女だろうが私がすきなのは貴方ですから、もう黙って大人しくしてベンチに座って私に膝を貸して下さい」




そのあと、男同士の膝枕なんて気色悪い、たるんどる!と叫んだ真田くんを、柳くんと仁王くんがぶん殴ったのはまた別の話。







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