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「ええと…じゃあわたし、失礼しますね」

ずっとここに居ても特に意味はないし、長門さん…もとい有希さんにとっても邪魔だろうなと思って腰を上げると、有希さんも同じ様に立ち上がった。

「…どうかしたんですか?」
「送っていく」
「え、でも」
「気にしなくて良い」


そう言ってから、彼女は足早に廊下へと向かう。その後に着いて行きながら、先程長門…じゃなかった、有希さんに言われた言葉を思い出していた。

確か、「敬語はいらない」と言っていた筈。だけど 送っていく云々のやり取りをしていた時、わたしは明らかに敬語だった。
失敗したなあなんて思いつつ伏せていた視線を上げれば、玄関の扉を開けたまま待っている有希さんが立っていて。どうやら考え事をしている間に、有希さんとだいぶ離れていたらしい。
慌てて玄関まで走って行き、靴を履いて外へ出る。それから有希さんの手から離れた扉が、大きな音をたてて閉まった。


「あの、ごめんなさい。考え事してて」
「いい」

素っ気なく返された言葉に、やっぱり怒っているのだろうかと思考回路をぐるぐるしていると、わたしより二歩程前を歩いていた有希さんが振り返った。


「怒っていないから」

気にしないで、と続けられた後、彼女は再び前を向いて歩き出す。わざわざ立ち止まってまで言ってくれるなんて、少しでもわたしの事を気にしてくれたのかな。そう感じられて、何だか嬉しくなった。



だいぶ歩いて やっと見慣れたマンションが見えてきたところで、出入口の自動ドアの横に人影があるのが判る。暗くて顔がよく見えないけれど、確かに見覚えのあるシルエットだ。


「一樹、くん…?」

小走りで近寄って小さく声を掛けると、壁に凭れ掛かって腕を組み そのまま目だけ伏せていた彼の視線がわたしへと向いた。








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