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4月。
わたしは北高に入学して、一際目立つ彼女を見つけた。
長い黒髪を垂らして不機嫌そうに立っている美少女は、間違いなく、わたしがここにいる理由で、無意識に周囲の環境情報を操る――つまり自分に都合の良い様に周りを変えてしまう神様的存在。

ぶっちゃけ、そんな風には見えない。寧ろ、普通の女の子(それにしては美人だけれど)と言った方が正しいと思う。
だけど、"あの人たち"がそう言ったってことは、きっと間違いの無い事で。


だから、取り敢えず わたしは彼女と接触しなければいけない。……だけど、"控えめで大人しい苗字名前"には、そんな事さえ難しいみたい。
ただでさえ不機嫌そうな顔で腕を組みなから、上空を睨む様にして立っている彼女は、誰であっても話し掛けづらい雰囲気を纏っているのだから。

どうしようか、とうんうん唸っていたら、後ろの方から 女の子の綺麗な声が聞こえた。


「…苗字、名前?」


その声に誘われるように振り向くと、そこに立っていたのは 眼鏡を掛けた無表情の少女。
どこかで見た覚えのあるその少女は、真っ直ぐこちらへ歩いてくると、わたしの手を取って歩き始めた。しっかりと手を握られていて付いて行く他なかったから、わたしは ただ黙って歩く少女が誰なのかを考えることに専念した。



「着いた」

素っ気ない一言に反射的に顔を上げると、目の前に見えたのは大きなマンション。不思議に思って隣の少女を見ると、彼女はそれと同時に歩き出す。

「来て」
「あ、…はい」


当然の様にわたしを連れてエレベーターに乗り込み、七階へ着いたところで降りる。わたしは その間もずっと、この少女が誰なのかという事だけを考えていた。
そして、ひとつの答えが 不意に浮かぶ。

「長門、有希さん?」



ふと頭に浮かんだ名前を口に出すと、わたしの一歩前を進んでいた少女はゆっくりと振り返って 此方をじっと見た。


「そう」

静かに紡がれたその言葉は肯定の台詞で。
な、長門さんって…あの?って言うかここ、長門さんの家だよね。何でわたしが連れてこられてるの…?
わたしに何か用でも…

「入って」


思考の渦に飲み込まれそうになったけれど、長門さんの声で何とか引き戻される。顔を上げると708号室のドアが開かれていて 目の前には長門さんが立っていた。
早く、とでも言いたそうに此方をじっと見ているのに堪えきれなくなり いそいそと上がって扉を閉める。

それから通されたのは広めのリビングだった。殺風景な感じで、コタツぐらいしか家具が無い。「座ってて」とだけ言って、長門さんは台所に行ってしまう。
仕方ないので、わたしはコタツの側に正座をして 彼女が戻って来るのを待つ事にした。







あきゅろす。
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