お題
好きと不安は似てるから
胸を締め付けられるような想いは、一度だけではない筈だ。
出会い、愛を見付け、結ばれてから何度も思った。
今のままの幸せが続くと誰もか信じ、時間は過ぎて行く。
好きは好き、それでも、常に不安は隣り合わせ。
「俺なんかで…」
「何が、俺なんか?」
すると思っていなかった声。
背後から回された手に心臓を踊らせ、汗が滲む。
出掛けていた筈の恋人の登場に思わず息を飲み込んだ。
「びっくりした…お帰りなさい」
「テレビも付けないで、どうしたの」
あっという間に身体を抱かれ、膝の上に乗せられる。
未だ煩くなる心臓に苦笑して、蒼は和臣の背中に腕を回した。
───…一人で居ると、つい考えてしまう。
不安になる気持ちと戦いながら、過ごして来た。
こうして、和臣の存在一つで不安は安心に変わる事が出来た。
「好き過ぎて怖いの…」
「怖い?」
「うん…臣君がいなくなったらって考えたら…」
本当は考えたくない。
甘えるように顔を胸元に押し付ければ、優しい指先が蒼の頭を抱いた。
黒い髪がさらっと靡く。
香りの良い髪を撫でながら、和臣は静かに笑った。
「俺はいなくならないし。ずっと側に居るって約束しただろ」
「そうなんだけど…」
「蒼を置いてどっか行ったりしないから…安心しな」
優しい手付きが擽ったい。
目を細め擦り着く蒼を全身で受け止める。
交わした約束を破るつもりはないと、黒い髪に口付けた。
「好きと不安は似てるから。でも俺は、臣君の為を思っての不安なら、何も怖くはない」
「…俺が一緒にいる。俺だって不安になる」
本音をぶつけ合い目線を交わす。
触れられた頬の熱が上がって、蒼は目を閉じた。
何時まで経っても慣れる事はない。
羞恥で頬を染めた蒼の瞼に口付け、微笑んだ。
「…大好き」
誤魔化す振りをして込めた力。
体温を直接感じながら抱き締めた身体を、逆に包まれる。
同じ悩みを抱え、生きている。
最初から最後まで気持ちは同じまま、誓ったのだ。
「これからも、宜しくね」
────…絡めた小指は何時までも、離さない。
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