お題 欲に愛に君に夢中 ────…自分はイカれてる、そう思った。 半強制的に奪い囲い飼い殺しにした、愛しき男。 無邪気に笑う横顔を見るだけで、不安に駆られる時もある。 和臣は考えた事もあった…このままで良いのかと。 常に危険と隣り合わせにある自分なんかと、一緒に居て蒼は辛くないのだろうか───きっと、彼はこう言うだろう。 "臣君が居れば、他に何もいらない" 常に自分よりも、相手の事を思っていた。 考えれば考えるだけで胸が締め付けられた。 「…怖い顔してる」 「…うそ」 「ほんとう」 眉間にあてられた人差し指。 突然現れた蒼の姿に驚き口を開くが、直ぐに普段通りに戻る。 蒼の手にはココアの入ったマグカップ。 それを受け取り口に運ぶと、口内に甘い香りが広がった。 「仕事のこと?」 和臣の脚に自分の足を絡ませる。 重いや邪魔等の言葉は一つとして言わず、マグカップを蒼の手に受け渡す。 ───…純粋無垢な、顔が和臣を覗き込んだ。 今直ぐ、汚してしまいたくなるような──まるで、硝子玉のように美しい。 欲に駆られ負けそうになる自分を押さえ込む。 「蒼の事だよ」 「俺?」 「そう。何時も考えてる」 定位置のソファ、真っ直ぐ見詰めて口を開いた和臣に戸惑いを覚えた。 基本的に真面目な思考の持ち主ではあるが、こうして真剣な面持ちをする事はない。 それが今、自分の事を考えていると言い顔を強張らせている。 「まさか、別れ…」 「な訳ないでしょ」 間違っても、自分から手放すような真似はしない。 大きな双眸を見開く蒼に和臣はすかさず言葉を被せた。 一緒に居れば居るだけ、手放せなくなってしまう。 愛情と欲望は紙一重に渦巻き和臣を覆い尽くす。 「ひと安心…」 「安心はしないで。」 「え……?」 安堵の息を吐く間もなかった。 独特の音を立て火を点したジッポー。 慣れた手付きで蓋を閉めた途端から舞い上がる紫煙。 目を細めた蒼の横で、和臣は細長い息を吐き出した。 「蒼を壊しちゃうかもしれないから」 「…臣君?」 「愛し過ぎて、蒼の事。男だから俺も」 狂って、しまいそうで。 自棄になった声に一人笑う和臣に、蒼は手を伸ばす。 冷めてしまったココアは、いつの間にかテーブルの上に置かれていた。 「…壊してよ」 「………」 「臣君の手で、俺を…生かしたのは、臣君なんだから」 手を握る、伏せた瞼が震える。 和臣の視線が指先に持っていかれた。 蒼の目に、迷いはない。 あの時、生かしてくれた和臣に全てを捧げると誓った。 「…蒼には敵わない」 煙草を消して、ソファの上に寝転がる。 蒼の膝に乗せた頭に体重を掛け、頬に手を伸ばす。 「もう壊れてるけどね」 「俺も。蒼中毒」 一生離さない、口元だけで誓う愛。 降りて来た蒼の頭を抱いて、二人は静かに口付けた。 ────…欲に愛に君に夢中。 ≪≫ |