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過去編





物心が付いた時から全寮制の学園に俺はいた。
両親は海外での仕事が多く、俺を転々とさせるのは可哀想だからと言っていた。
そのせいで、俺は殆んど両親からの愛情を受けずに育った。
年に一度だけしか会えない両親への接し方も分からずに、愛想笑いを浮かべるのも辛くなっていた中学一年の頃。


俺は彼に一目惚れをした────。





******



生まれた時から、自分の容姿がコンプレックスで仕方がなかった。
男に生まれ育ったのに、女のような顔が気に入らなかった。
全寮制の学園は男子校、女子のいない閉鎖された空間では思春期を迎えたばかりの人間にとって、俺はかっこうの餌食となった。
俺が初めて、イジメ以外の事に恐怖を覚えたのが小学校5年の時だ。
上級生の男子5人から、暴行を受けたのが原因。
殴る蹴るは当たり前で、抵抗出来ずに身を守り続ける俺を彼等は強姦した。

あの時の事は、今でも鮮明に覚えている。
忘れられない恐怖は、簡単に身体と記憶を支配した。


『顔は殴んなよ、女顔が台無しになる』


どうせなら、目茶苦茶に殴って欲しかった。
この顔が無ければ俺は解放される。

『まじ、キレー…。こいつの写真、ばらまこうぜ』

最初からばらまけば良かったんだ。
そうすれば、あの時の俺なら両親に泣き付く事が出来たんだから。

『これ、ばらまかれたくなかったら言うこと聞けよ?お前は今日から俺達の肉便器な』

初めから、それが目的だった癖に。

何処か冷めた感情を向ける俺に、そう言って何度も犯した上級生との関係は、そう長くは続けられなかった。
初等部を卒業すれば、中等部に行く彼等との関係は終わる。
案の定、卒業と共に俺への興味が失せたかのように上級生達は俺の前に現れなくなった。


──そして俺が6年になった時には、沢山の友達も出来て忌々しい出来事が過去の物へとなって。
親友と呼べる存在の子もでき、中等部から同じ寮部屋になった。
凄く充実した毎日。
俺が望むのはこんな毎日だったのかも知れないと思っていた時、忘れかけていた記憶が簡単に甦ってしまう。


*****


「見て、あの子でしょ」
「まじきもーい!金貰ってまで脚開くとか最低だよね」

本当に、突然だった。
昨日まで普通に接してくれていた友達が、目も合わせてくれなくなってしまった。
明らかに自分を指差して笑う同級生。
擦れ違い様に向けられる視線は、背筋を凍るように冷たく突き刺さる物や、俺を下品な目で見る物。

お金を貰ってまで脚を開くとはどうゆう事か、俺にはさっぱり分からない。

「一君…何か、知ってる?」

部屋に帰った俺は親友の一也に相談した。
見せた事もない表情を浮かべて、俺を見た一也は確かに俺を軽蔑した視線を向けている。
立ち尽くしたままの俺を、一也は吐き捨てるように言い放った。

「涼しい顔して色んな男と寝てたんだろ?確かにお前の顔なら有り得なくないしな」
「な、なに言ってるの…?そんな訳…!」
「じゃあこれは何だよ!!」

突然怒鳴った一也の手から投げ捨てられた、何か。
床に散らばる其を目にした時、俺は身の毛も弥立つ思いをした。

…どうして今更になってこんな物が、此処にあるの。

「…これは、ちが…っ」
「聞いたよお前の噂…最低だな」
「かずくん違うの、これ…」

自然に溢れる涙は止まらない。
床に散らばった写真をかき集めながら、俺は必死に否定した。
一也にだけは信じて欲しい。
それだけの一心で、首を振り続ける。
それでも一也は俺を一瞥して鼻で笑うと、ゆっくり立ち上がって俺に近付き髪を引き上げた。


「気持ち悪いんだよ、俺の名前呼ぶな」


────絶望。
そんな言葉では片付けられない感覚。
俺の髪を掴み、汚い物でも見下ろすように凝視する。

その日から、一也は変わってしまった。
俺を、あの上級生達と同じ目で見るようになった。
上級生達が俺を弄ぶのを止めたのは、きっとこの為なのだろう。
忘れて前へと踏み出した俺を絶望させ、蹴落として再び弄ぶ為。

写真がばらまかれてしまった時から、俺は人との接触を極力拒むようになった。
一也が俺を肉便器と呼んだ時、涙が止まらなかった。
泣き叫ぶ俺の口を塞いで無理矢理犯す一也の顔は、もう俺の知っている親友の顔では無くなっていた。


もう、元には戻れないのかな。


*****


日曜日の朝、可愛い顔をした男の先輩が部屋へとやって来た。
同時に夕方まで帰って来るなと一也に言われ、俺は仕方なく制服を身に付け部屋を出る。
…しかし、友達がいなくなってしまった俺が行く宛はなく。
今日1日は誰も使う事のない学校へと向かった。
───中庭は、唯一俺が心落ち着かせられる場所。
イジメや嫌がらせを受けていた頃から、俺は良く此処に来ていて一人のんびり過ごすのが堪らなく好きだった。
そんな日曜日に訪問する人間がいるとは予想もしていなかった俺は、声を掛けられた時心臓が飛び出そうな程驚いてしまう。

「──…何してんだ、お前。」

明らかに人とは違う雰囲気を纏ったその人から───…俺は目を離せずにいた。








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あきゅろす。
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