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念力者の癒し


そのやり取りはわたしの密かな癒し。





わたしは小さい頃から手で持たずに物を浮かせて動かせた。それがサイコキネシスという《力》で『おかしなこと』だと、パパとママから言われて育った。でも愛されて育った。《力》を使っていいのはお家の中だけ。パパとママの前でだけ。

パパとママは愛してくれた。




「Hey, eat cookie?」




でも今はパパとママと一緒じゃない。日本から遠く離れた外国の、海の上の基地で暮らしてる。ダイアモンド・ドッグズという軍隊と一緒に。

隊員さんのひとりが、わたしの手の平くらいもあるクッキーを差し出してきたので、わたしは英語でありがとうと言って受け取った。

隊員さんはわたしの頭を撫でて離れていく。食べきるには時間が掛かったけどクッキーはとってもおいしかった。




「(2時に倉庫だっけ。まだあとちょっとあるけど、もう行っていよう)」




ダイアモンド・ドッグズのボス、スネークさんに拾われて半年。その前は1年くらい奴隷だった。




奴隷になってしまったいきさつは、ニュースでよく聞く展開だった。

家族で海外旅行をしていて、パパとママとほんの少しだけ離れていた間にわたしは拐われた。海外で拐われると娼婦にされることが多いと話に聞いたことがあって、逃げたくてつい《力》を使ってしまった。《力》のおかげで娼婦にはされなかったけど研究所に連れてかれて、調べられた。

スネークさんに保護されたことは本当に運が良かったと思う。

倉庫について待っていると、昨日わたしに頼みたいと言ってきた女の人が来た。着いていくと大きなコンテナの前で止まって扉を開く。




「It's Fulton recovery by the BOSS. Not danger. So, you want delivered to a R&D.」
「デリバリー…、アールディー…」




ウエストポーチから地図を出して開発班のプラットホームを確認する。女性の隊員さんが指で届ける場所をさしてくれて助かった。




「おぅけい」
「I'm counting on you.」




地図をしまって、両手を荷物に向ける。手を上にずらせば、運ぶ荷物が全部浮く。建物にぶつけないように気をつけてプラットホームを進んだ。

あ、ヘリコプター。だれかが戦いに行くんだ…?それとも帰ってきたのかな。

階段を上がって廊下を進むと、黒い服装の隊員さんが4人と白い髪が見えた。オセロット教官さんだ。わたしのせいいっぱいの大きい声で猫の鳴き真似をする。聞こえるかなあ?




「ニャオォ〜〜〜〜ォ、―――ナァア〜〜オウ…」




少し待ってみる。




「………。聞こえなかったかな。ちょっと遠かったみたい」




指示を出すオセロット教官さんの姿、指示をもらって敬礼をする隊員さんたちの姿。




「―――…かっこいい…」




ぼんやり眺めてたら隊員さんたちはヘリコプターの方へ歩いていった。




「いってらっしゃい。どうか帰ってきて…」




無事を祈ったあともう一度教官さんを見てみると、彼がわたしを見ていた。




「っ!ナァアーーオゥ」
「ニ゛ャァ゛アアゴ」




気付いてくれた!聞こえてたんだ!嬉しい!




「メェ〜〜ンっ」




ああっすごく嬉しい!わたしは1回頭を下げて会釈をして荷物運びに戻る。目的の開発班の場所に来た。




「エクスキューズミー」
「Wow, What's a fuck?! Why floating the container?! ――― Oh, HAHAHA! My dear!!」
「へろー。フルトン バイ ボス。グッズ デリバリー」
「Thank you. Put there.」
「オゥケイ」




そっと全部を置くと名前を呼ばれて、なんだろうと向くとアメを貰った。




「センキュー」
「Good girl. 」




嬉しい。わたしは他にも手伝えることがないか探しに行った。でもいまのところないみたい…。

その時、銃を撃つ音がした。そっと角から様子を見ると、オセロット教官さんが隊員さんに指導してる。




「(……人を殺す練習…自分を守る練習……。銃はこわい)」




でもみんなが真剣に練習している姿はかっこいい。じっと見ていたら急に頭を撫でられた。




「っ!?」




振り返るとチョッキが…。見上げればスネークさんだった。




「お、かえり、なさいっ、スネークさん」




びっくりして日本語で言っちゃったけど、何回かまた撫でてくれてスネークさんは練習中のそこへ歩いていく。

大きい背中だなあ。パパはあんなにはおっきくなかったけど、パパみたい。パパは恥ずかしがり屋さんだから撫でてはくれなかった。

少しして教官さんがこっちへ来た。無表情に見えるオセロット教官だけど、怖くはない。奴隷のときに恐い表情をたくさん見た。

みやぉうって呼び掛けると珍しく驚いたようにわたしを見た。




「っ! Hey, Lady. Your job is done?」
「(ジョブとドーン……)フィニッシュドゥ。ウェーアーユー ゴーイング?」
「Training room. 」
「(えっとえっと、わたしは願う、だから)アイ ウォント トゥー ツアー ザ トレーニング。トゥゲザー、オウケイ?」
「………,Yap. 」




よかった…。邪魔じゃないんだ。やった〜って言うつもりが、オセロット教官さんとは鳴き声でやり取りすることがあるから、つい癖で鳴き真似が出た。その鳴き真似は独り言のはずだったけど、




「……………ナァ゛ア゛」




まさか返してくれるとは思ってなくて、教官さんを見上げる。わたしが見てるのに気づいたみたいで、ちょっとだけ顔を向けてわたしを見下ろしてきた。目線が合うって本当に幸せなことだと思う。

……えへへ。

教官さんはすぐに前を向き直して歩く。

トレーニングルームに着くと、隊員さんたちはかっこよく敬礼して、わたしには手を振ってくれる。すみっこで見学させてもらった。

猫の鳴き真似は隊員さんたちの間ではやってるみたいで、何人かは小さく鳴き真似でわたしに挨拶をくれる。わたしもそれに鳴いて答える。そして笑顔になる。わたしの反応でほかの人が笑顔になってくれる。ダイアモンド・ドッグズに来る前までは経験しなかったこと。





このやり取りはわたしの密かな癒し…。


あきゅろす。
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