そのやり取りは俺の癒しなんだ。 俺は、派遣傭兵でロシア兵としてとある検問所を監視していたんだけど、このダイアモンド・ドッグズのボス、スネーク長官殿にフルトン回収されてDDの一員になった。 最初こそ反感しかなかったが、元上官と違って、ボスは忙しい中でも時間が許す限り、マザーベース内を廻って俺達隊員1人1人と挨拶を交わしてくれる。 「お帰りなさい、ボス!」 「……」 言葉はないが、ヒョイと片手を上げてくれて眼を合わせてくれる。それだけで、モチベーションは上がるんだ。『トップが気に掛けてくれている』『使い捨てと思われてない』と分かるから。又、それは、癒しでもある。 時には直々にCQC掛けてくれたり。避けられず捕まったら、ダイアモンドの隠し場所を吐く羽目になる。 「今回の任務は人質救出だ」 そして今、俺を含め6人が、オセロット教官から、人質・敵陣・地形諸々の情報、つまり今回当たる任務の詳細について説明を受けてる。その最中、 「ニャオォ〜〜〜〜ォ、―――ナァア〜〜オウ…」 遠めの何処からか猫の鳴き声が聞こえてきた。俺は、きた!、と内心喜んだ。癒しその2だ。 ほんの一瞬だけ教官が詰まるも、何事もなかったように説明が続けられる。これは教官も鳴き声に気付いてる証拠。つまり、幸運にも任務前に“アレ”が聞けるかもしれねえ。最高じゃねえか! 「――――…以上だ。全員生きて戻ってこい」 「Sir, Yes sir!!」 フォーメーションについて話し合いながらその場を離れ、曲がり角を曲がったところで俺は仲間に小声で待ったをかけた。 「くくっ、おれも聞きてぇんだ」 「なんだ!そっか!」 「聞くって何を?」 「片方には殺されるかもしれませんが、お2人とも可愛いですからねぇ。景気付けに聞きたいものです」 「?」 「2人って誰よ」 3人は知らないらしいからいい機会だ、聞いてけ。全員で気配を消して待つとまた遠くから猫の鳴き声。さっきと“言い方”が違う。嬉しそう。その鳴き声のすぐ後に、 「ニ゛ャァ゛アアゴ」 野太い低い良い声色の鳴き声が近くから響く。さっきの高い鳴き声への返事だ。 「メェ〜〜ンっ」 それに対して更に相手側は嬉しさ溢れる声色で“言ってきた”。オセロット教官の靴音がしてこのやり取りが終わったことを知らせる。俺達もランディング・ゾーンに向かう。 「―――――…あ〜〜〜〜和んだ〜」 「オセロット教官にあんな一面があったとは」 「山猫部隊隊長、さすが声真似うめえ」 「彼女も本物のように声真似しますよね」 「ガキん頃飼ってたんだと」 「ああ、それでですか。よく知ってますね」 「たまたまだ。あれは確か―――」 と、俺はあの日を思い出してみる。 「ミラー副司令官とオセロット教官に定期報告しに行ったとき、昴ちゃんもいて。それからボスとDdogが来て、昴ちゃんが犬の吠え真似したんだよ。それが始まりだったな」 「小型犬のだろ?聞いたことあるぜ」 「そうそう、それが案外似てて。そんでDdogとわんわん吠えてじゃれてて、パッとオセロット教官を見て“鳴いた”んだよ、さっきみたいに」 「スバルは山猫部隊を知ってたのか?!」 「いや、動物のオセロットを知ってただけらしい。あ、日本語だったからミラー副司令官の通訳な。彼女の鳴き真似聞いてさ、ミラー副司令官が面白がって、山猫時代みたいに返事してやれって」 ランディング・ゾーンに着けばヘリコプターが待っていた。プロペラの音で声が掻き消えるから乗り込んだあとに続ける。仲間も続きを言えって目で見てくる。 「渋々ボスや俺の前で“鳴いて”くれたんだ。 で、オセロット教官が部隊長の経歴の持ち主で、命令出すのに山猫の鳴き真似をしてたって初めて知ったわけ。それからだよ、昴ちゃんがオセロット教官を見るとああやって呼び掛けるようになったのは」 「でも僕は返してるの今日初めて聞いたけど…」 「ほら、猫は気紛れだから」 「恥ずかしいだけだと思いますがね。これで今回も調子が上がりました」 「だな。気を引き締めていこう!」 彼と彼女のやり取りは俺の、否、俺達の癒しなんだ。 |