腹が減っては戦はできぬ! 「えっと、他に何か必要なものはあったけ?」 歯ブラシやお箸などの日用品も買ったし、着替えの服も買った。 布団はお客様用のがあったから、それを使うとして………。 「もう、ないかな。 何か欲しいものある?」 「必要ねぇ」 「そう」 そこで途切れた会話。 私たちの間に会話はなく、静寂しかない。 だが、気まずいとはまったく思わない。 普段の私ならこういった静寂は耐えられないが、今回は別に気にならない。 それは何故か解らないけど。 敢えて言うなら、その相手がザンザスだからかもしれない。 だって、ザンザスがかなりお喋りだなんて嫌だしね? ザンザスは無言であるべきなんだよ。 「おい」 そうなると、いつもこんな調子なのか? うわぁ、嫌だな。 流石に途中で嫌気がさすよ。 「おい」 昔からこんな感じだったのかな? 喋らない子供か………。かなり大人びてんじゃん。 「おい、テメェ。人の話を聞きやがれ」 ガッ 「っう!?痛いわねっ、何するのよ!」 「ふん。自業自得だ」 殴られた頭を押さえながら睨み付けるが、鼻を鳴らすだけで無視された。 「まったく、暴力的なんだから。 で、一体何よ」 「腹へった」 「えー、もうちょっと我慢して。外食は高いのよ? 帰ったら何か作るから」 ぐうきゅるるる え………、待って。何、今の音。 もしかして、私のお腹の音!? まっさかぁ、そんなわけないわよね。 だって、乙女がお腹を鳴らすなんて…… ぐうきゅるるる また鳴ったお腹に、顔に熱が集まっていく。 心なしか大きくなったように聞こえたその音にザンザスを見上げれば、意地の悪い笑みを浮かべていた。 「ま、マックでいい?」 「何でもいいからさっさと行くぞ」 そう言って、先にスタスタと歩き出したザンザスの後を追う。 ****** 「何だこれは。食いにくい」 ハンバーガーを睨みながら言ったザンザスに苦笑をこぼす。 今までこんなファーストフードなんて食べたことなどなかったのだろう。 ハンバーガーを本当に食べにくそうに食べているザンザスが可愛くて、さっきからくすり、と笑みが零れてばかりだ。 あぁ、その気持ち解るな。 私も最初のころは、食べにくかったんだよね。 ナイフとフォークを使わずに食べるなんて、考えられなかった。 てか、手掴みなんて下品だって教え込まれたからね。 会社が上手くいく前は、ハンバーガーは体に悪いから、なんて言って食べさせてもらったことがなかったし。 故に、中学校のときに初めて友達とハンバーガーを食べたときは、かなり苦労をした。 昔の自分を見ているような気持ちでザンザスを眺めていれば、だんだんコツを掴んだのか。 ソースや野菜をはみ出さなくなった。 「お、ザンザス凄いね。 こんな短時間で、ちゃんと食べれるようになるなんて。 これもヴァリアークオリティーってやつ?」 「あ゛ぁ?何勘違いしてんだ。 俺はヴァリアーじゃねぇ」 「え、そうなの?」 「当然だ。時期十代目が暗殺部隊なんかに入るわけねぇだろ」 てっきり、もうヴァリアーのボスかと思っていたのに。 ていうことは、ザンザスはまだ知らないの? 九代目の実子ではないこと。 じゃあ、教えてみようか。 そうすれば、ザンザスがクーデターを起こすことなんてなくなる。 九代目に凍らされることなんてない。 リング争奪戦なんて、起きないんだ。 「あのね、ザンザス、」 君は、九代目の実子じゃないんだよ。 その言葉が、喉につっかかって言えなかった。 大切な部分なのに、言えないなんて。 私を訝しむような目で見ているザンザスに何でもない、と首を横に振る。 やっぱり、言うのはやめよう。 私が教えたところで、ザンザスは結局クーデターを起こすだろうから。 私の小さな力で、未来なんて変わるわけない。 だったら、そんなことをしたって無駄なのだ。 無駄なことをしても、それは無意味でしかない。 ポテトをひとつ口にいれれば、塩の味が濃かった。 辛いポテトに、僅かだか顔を歪める。 (どう?美味しい?) (不味い) (………君の舌には合いませんでしたか) [*前へ][次へ#] |