シロナ←ハンサム/なしこ様(5/18提出)



この言葉は、漏らしてはいけない。漏らしたのなら、きっと堕ちてしまう。目の前の女神のような女性に。

「私が見たところ、ハクタイの基地はもぬけの殻でした」
煌めく金の髪はいつ見ても美しく、溜息が出てしまいそうだった。職務怠慢だ、と自分を諌め、彼女の瞳を見つめた。
「そうですか、ご協力感謝します」
「お仕事お疲れ様です、ハンサムさん」
生温いコーヒーを手に取り、眠気覚ましの為に喉へ流し込む。深い苦味が口内に広がり、思わず目を閉じる。
「お疲れですね、ハンサムさん。最近、睡眠はとられてますか?」
瞼を閉じても、浮かんでしまう、シンオウチャンピオン。黒に身を包んだ美しい女神。彼女は、私に笑いかけてくれる。もう、眠りなさい、と。
「恥ずかしながら、仕事に打ち込みすぎていて、あまり眠っていないです」
「お仕事も大事ですけれど、一番は自分の体です。飲み物なんかで、ごまかしちゃいけませんよ」
ああ、優しい言葉をかけてもらう度に、私は女神に胸を射抜かれる。恋しい気持ちが、私を支配する。
「ですが、私の使命はギンガ団の逮捕。それを達成するまでは、ゆっくり眠れません」
「そうですか。では、休憩室へどうぞ」
彼女は立ち上がり、細い指で部屋の奥を指す。そこには四天王が利用する休憩室がある、らしい。予想外の嬉しい言葉に、思わず声が上擦る。
「こ、困ります」
「倒れたらもっと困りますわ、ハンサムさん」
ああ、この言葉を口から紡ぎ出してしまいたい。手を取り見つめ合い、唇を寄せてしまいたい。そうすれば、そうすればこんなにも苦しまなくて済むのに。
「ハンサムさん、私は貴方のお手伝いをする、という紙に署名したんです。私ができることなら、なんでもやります。ハンサムさんは、どうぞ眠っていて下さい」
薄い唇が、横に広がっていく様子を見るだけで、こんなにも体が熱くなる。この人は分かってやっているのだろうか、そのくらい私のツボをつく動作を優雅にやってのけてしまう。
「眠っていかれないなら、私を倒してから出ていって下さい」
隠れた片目も、きっと笑っているのだろう。休むか倒すか、どちらも今の自分には難易度が高すぎる。
「何故、シロナさんは、そんなにも私を気にしてくれるのですか」
自然に、そんな失礼なふとした疑問が沸いて出た。別に家族でもなければ恋人でもない。ただの私の片想いだ。なのに、彼女は優しすぎる。
「目の前でふらふらになってる人を休ませたいと考えるのは、私だけなのかしら」
さあ、どうぞ。奥の部屋には寝心地の良さそうなベッドが五つ。そしてがっしりとしたソファが一つ。私の緊張は更に高まる。
「ベッドは私のを使ってくださいな」
「いえ、ソファを使わせていただきます」
横になるとすぐ、睡魔に襲われた。ああ、疲れていたんだ、本当に。私は救われたのだ、チャンピオンという名の女神に。ついでに高ぶった感情、これを吐き出してしまおうか。チャンピオンは何と言葉を漏らすのだろう。
ぐるぐると回る脳内にあの金髪が揺らめく。触れられない、そうだ、触れられないのだ。女神なのだから。ああ、納得できた。これでもう、愛されることを望まなくて済む。
うっすらと目を開けると、ぼんやりと金が見えた。愛しています、小さく呟いた言葉に彼女がそっ、と微笑んでくれたような気がした。




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