グリーン×ゴールド/響音様(10/4提出)


ジョウト地方、アサギシティ。ポケモンセンター。

そこの一室で、グリーンは部屋に入るなり書類とにらめっこをしていた。
グリーンといえばジョウトの隣の地方、カントーのジムリーダーというのはもちろん誰もが知っている。
なぜジョウトに居るのかといえば、それは定期的に行われるジムリーダーの集会が今回はここ、ジョウトで行われたから。

今回はやたらと長引いて、終わった時にはもう外は真っ暗だった。
帰るに帰れない時間ではなかったが、特に急いで帰る理由もないので今晩はジョウトで過ごすことに決めたのは、ついさっきのこと。

急いでポケモンセンターに向かった割には、まだ部屋に余裕があったらしく、すんなりと手続きは終わった。
長い集会のおかげで身も心もくたくただったが、やるべき仕事はたくさんある。
明日、少しでも楽になるように、と、シャワーを浴びた以外はほとんど机に向かっていた。

どのくらい時間が経っただろうか、不意にコンコン、とドアをノックする音がしてグリーンは集中力が途切れる。
返事をするとセンターの職員が入って来て、申し訳ないが相部屋を頼めないか、と尋ねられた。
時計を見ると、宿泊の手続きが出来るぎりぎり。

「今日は天候も相まって、宿泊施設を利用するお客さんが多くて……」

その言葉を聞いて、おもむろにカーテンに手を伸ばす。
相当集中していたのか、グリーンは全然気付かなかったが外はまるで嵐。
横殴りの雨が容赦なく窓に叩きつけてサッシを揺らしていた。

断る理由もなく、二つ返事で了承する。

それからしばらくして、乱暴にドアが開いた。
特に驚く様子もなく、グリーンがそちらに目を向けると、見覚えのある奴がそこには立っていた。
髪の毛も服も多量の水分を含み、肌に張り付いていて、この嵐の中をさ迷っていたのが一目で分かる。

「えー……っと……、たしか、貴方は、グリーン先輩、でしたっけ……?」

苦しそうに繰り返される呼吸の中で名前を呼ばれ、グリーンは短く返事をする。

自分の名前を呼んだ奴の名前は、たしかゴールドといった。
あまり面識はないが、何度か一緒に同じ戦いをして来た、地方は違うが同じ図鑑所有者だ。

「相部屋の相手って、先輩、ですか?」
「まあ、な」

するとゴールドは気まずそうに目を伏せる。
無理もない。今までちゃんと面と向き合って関わったことはないのだから。

「俺っ、シャワー浴びてきます」

空いているほうのベッドにリュックを投げ捨てると、こちらには視線を一切向けずゴールドは出て行った。




どれくらい時間が経っただろうか。

だんだんと集中力が持続しなくなってきて、グリーンは諦めてペンを置く。
ふと同室者の存在を思い出し、振り返ってみるとそこに姿はなく、代わりに静寂の中に定期的な寝息が聞こえた。

「……もうこんな時間なのか」

起こしてしまわないように、ぽつりグリーンは呟く。
時計を見ると、もうすでに丑三つ時に近い。今日一日の疲れもあり、時差をつけてどっと疲労がグリーンを襲う。
書類をまとめて、そろそろ自分も夢の世界へ旅立つこととする。
これだけやっておけば、のちのち苦労することもないだろう。

「ん……」

不意に布団が擦れる音がして、グリーンは手を止める。

まずい、起こしてしまったか。

振り返ると、寝ぼけ眼で起き上がったゴールドと目が合った。

「あれ、せん、ぱい……?」
「……起こしてしまったようで悪いな」
「もしかして、仕事してたんスか……?」
「まあな」

眠い目をこすりながら大きな欠伸をひとつすると、おもむろにベッドから立ち上がりこちらに歩み寄る。
そして机の上の書類を見るなり、ゴールドは顔をしかめた。

「俺、最近までずっとジムリーダーって、ただバトルだけしてればいいと思ってました」
「小さい頃はそう思ってた時期があったな。実際、なってみると結構忙しいが」
「やっぱり、俺には到底無理そうっス」

相変わらず眠気の抜け切ってない間延びした声で答えると、ゴールドはもう一度大きな欠伸をする。
それから何を話していいかまったく分からず、お互い口を開かずにただひたすら、隣同士で黙りこくっていた。
心身ともにくたくたのはずなのに、それほど親しいわけでもないゴールドが隣に居るこの時間を自分から手放すのがなぜか妙に惜しく感じられて、グリーンはその場から動けないでいた。

その間、ずっと何を考えていたかは分からない。
不意に肩のあたりに重みを感じて、グリーンの思考は現実に引き戻される。
何事かと隣に目をやってみれば、そこには自分の肩を枕にして、すやすやと寝息を立てているゴールドの姿。

ゴールドもグリーンと同じく、ずっと眠気と戦っていたのだろうか。

「……立ったまま寝るとは……ずいぶんと、器用な奴だ」

自分に体重を預けているとはいえ、立った状態のまま夢の世界へ旅立つという変なところで器用な部分に、グリーンは思わず感心してしまった。

幸せそうに眠るゴールドを、決して起こさぬよう、慎重に抱え上げてベッドまで運んでやる。

ずいぶんと幸せそうな、寝顔を覗き込むグリーンのその表情が、今までに見たことのない穏やかな表情であることを、きっとグリーン本人は知らない。





☆あとがき

マイナーCPという文字に惹かれてふらふらとやって来てしまいました。
グリーン×ゴールド、増えてくれてもいいのよ…! と切実に願っております。大好きです。

素敵な企画ありがとうございました!






41





第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!