マツバ×アカネ/大野様(2/9提出)






自分達じゃない誰かから見ればこの光景はとても異様なもの。普通こんな状況に陥ってしまえば、そう少女マンガの主役だったら顔を真っ赤にして相手のほっぺたを力一杯平手でぶっ叩いている。そんな状況。
まるで少女マンガの様に、だけど全くもって面白くもなにもないベタな感じで押し倒されているはずなのにそんな現実が私に降り注ぐわけでもなく、ただ私を押し倒した人の髪から零れてくる水滴が冷たいという感情よりもなんだかとても綺麗だと思ってしまったりだとか、少しだけ触れている指先が想像以上に冷たいことに驚いていた。
変に冷静な自分が考えていたのはここが風呂場の扉の前で、目前の彼が上半身裸でその身体から出る湯気を見て(あぁ、風呂上がりなんだ)と簡潔に思ってしまったことで。何よりも風呂上がりのはずなのに触れていた指先はとても冷たくて、意識に留めないうちにその手を繋いだ。私よりも大きな掌すら、もう冷め切っていた。


「冷たいなぁ」

「そうかな」

「ウチのがあったかいやろ、絶対」


動じなさすぎなのだろうかとかも考え始める。けれど私が考えるという行動よりも以前に、この人は自ら私の上から退こうとしない。なにがしたいのかも分からないままなぜか暫く他愛のない会話が続いて、漸く自分から湯冷めについての会話を出してみた。納得をしてはいるだろうけれど物足りないとでも言う様な笑顔と動きをしておきながら、段々と近付いてきたその男のくせに女の人みたいに整った顔を押し退ける。なんとなく今やられようとしていたことについてを問いつめてみた。男にしては白すぎる、けれど女の人よりかは広い背中は空気に馴染む笑いを吐いて私の言葉をいとも簡単に流した。さっきまで自然と繋がってしまっていた掌を天井にかざす様に見つめていた。空気に触れると冷たいと感じてしまうのは、この人の冷たさが私に移ってしまったからだろうか。
再び視界にやってきた姿はやっと服を着込んでいて、空気を掴もうとしている様に見える私の手をまた握ってこの身体を起こしてくれた。確信的にその胸に飛び込んでみる、あんなに冷たかった掌とは対照的な温度。言葉よりも前に心臓が告げ口をした。
ああでもほら、よく言うでしょ?


「手が冷たい人は心が温かい、て、ほんまなんやな」





この温度差は、私の為だけにあって欲しい、と。





Thanxx by minorCP

from:HASAMI






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