ヒビキ×グリーン/露草様(11/9提出)
※響と金は双子設定です。
ジョウトでの騒動も無事に収束し、トキワに帰って随分経った頃だった。
カントー対ジョウトの全ジムリーダーによる対抗戦が行われて以来、どこのジムも挑戦者で賑わっている。
このトキワジムも例外ではなく、連日多くのトレーナーが挑戦しにきた。
だがいまだ、グリーンバッジを手にしたものはいない。
それなりのバトルをこなし、今日の挑戦者はこれで終わりかと思われた頃だった。
扉を開けてきたのは前髪のはねた少年。
顔見知り程度にしか会ったことはなかったが、それでも図鑑所有者ということである程度知っている少年だった。
「……ジム戦を、お願いできますか?」
「たしか…、ゴールドといったか」
西日が射し込んでいるせいで顔がよく見えない。
たしかゴールドという少年は口の悪い不良みたいな少年だったはずだ。
目の前の少年は何かが違う。
雰囲気は柔らかいのだが、その目は連戦を潜り抜けてきたかのように鋭い。
その目の強さはレッドを思い出すほどだ。
「来い」
相手が誰であろうとジムリーダーとして戦うのみ。
少年はほっとしたように息をついて、建物の中に一歩踏み出した。
よく見れば服装も違い、瞳も暗色を示している。
とりあえずゴールドとは別人ということは分かった。
「お前、ゴールドの親類か何かか?」
「はい。ゴールドの双子の兄です」
控えめに笑った顔に、どくんと胸の奥が鳴った。
それは強者を前にした高鳴りなのか、それとも……
「お願いします」
ボールに手をかけた少年は、手馴れた動作でそれを放り投げた。
現れたのはカイリュー。
それもかなり鍛え上げられているのか、恐怖を感じさせるほどに強大な力を感じさせられる。
レッドと戦って以来だ、こんなに武者震いがするのは。
ジム戦のメンバーで戦うか、それとも手持ちで戦うかを迷っていると、少年はにっこりと笑った。
「たしか、トキワジムリーダーさんは本メンバーとジム戦メンバーを分けていらっしゃるんですよね?」
「ああ」
不良という印象が強いために、敬語を使われると違和感がして仕方がない。
声も姿もよく似ているのに、ゴールドとは違う、一種の貫禄のようなものさえこの少年は持っていた。
様々な戦いを経たと思われる少年は曇りのない瞳でこちらを見ている。
そのことがどうにも居心地が悪かった。
「本メンバーで、お願いします」
「いいだろう」
少年は切れそうなほど鋭い雰囲気に一変させた。
さっきまでの穏やかな空気は払拭され、あるのはバトル前特有のピリピリとした緊張感。
自分の一挙手一投足が捕縛されるような重い空気の中、信頼する仲間のボールに手をかけた。
「…っ、はぁ」
リザードンが地に伏す。
これほどまでに手も足も出ない相手に出会ったことがあっただろうか。
カイリューがあの少年のエース級だというのは間違いない。
やっとカイリューを倒したかと思えば、次に出てきたのはワタッコ。
素早さが高くなるように育てられているようで、悉く先手を取られてしまった。
少年の手持ちと相打ちに持ち込むのが精一杯で、最後の砦だったリザードンもブラッキーのシャドーボールで打ち倒されてしまった。
「俺の負けだ。グリーンバッジを渡す」
「ありがとうございます」
バッジを受け取るために少年が近づいてくる。
ようやく顔がはっきり見えた。
さっきまでの激しさを微塵も感じさせない様子で屈託なく笑いかけてくる。
また1つ、胸が大きく高鳴った。
「そういえば、お前の名前は?」
「ヒビキです。あなたはグリーンさん、ですよね?」
「ああ。それにしても強いな。完敗だった」
「今まで色々な地方を旅して来たんです。
僕が旅に出て1年後、ゴールドもジョウト地方で事件に巻き込まれて旅に出たそうですが……」
「それを聞いて戻って来たのか?」
「はい。もう事件は終わっちゃった後でしたけどね。
ゴールドがお世話になりました」
「いや、俺は何もしていない」
事件を解決したのはゴールドたち、ジョウトの人間だ。
自分達はその手助けをしたに過ぎない。
ありのままを伝えると、ヒビキは目元を和ませた。
「グリーンさんって、飾らない方なんですね」
「真実を言ったまでだ」
「それを飾らないって言うんです。
なんだかグリーンさんのこと、もっと知りたくなっちゃいました」
茶目っ気たっぷりにヒビキが笑う。
ヒビキが笑う度に胸の奥が疼く。
一体なんなんだ、この感情は?
「またお邪魔していいですか?」
「構わない」
考えるより前に言葉が飛び出す。
今日の俺はおかしい。
バトル後で高揚しているのか、それとも……
「ありがとうございます」
今まで見た中で飛び切りの笑顔を見せたヒビキは、出しっ放しだったブラッキーを一撫でした。
ブラッキーもリザードンを倒したとは思えないほど従順に主に従い、優しそうな目で俺とヒビキを交互に見ている。
ポケモンがトレーナーに似るという話は本当なのだろうか?
「……ヒビキ」
もう行ってしまうことに寂しさを覚えて小さく名前を呟けば、ヒビキは少し驚いた顔をした。
少しだけ頬が赤く染まっているように見えるのは夕日のせいではないだろう。
「なんだか、グリーンさんに名前を呼ばれるとくすぐったいですね」
「俺もだ。何故かは分からないがな」
この気持ちの正体はなんなのだろうか?
ヒビキも同じ気持ちを抱えているらしい。
ブルー辺りに聞けば分かるだろうが、後々面倒なことになるのは予想出来た。
「ではまた。お元気で、グリーンさん」
「ああ。またな、ヒビキ」
やっぱり寂しいと思う。
こんな思い、生まれて初めてだ。
変化に戸惑いつつも、悪くないと思ってしまっている自分がいることも確か。
だから近いうちに、あの少年がまた訪ねてきてくれることを祈った。
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