サカキ×エリカ/丗匂坂様(8/17提出)





「あの、あなたにひとつ伺いたいのですが」

朝のタマムシジム、彼女が普段ここにくる時間よりもだいぶ早いとき、そんな事を言いながらエリカはやってきた。彼女は新聞を片手に持っており、やたらと神妙な顔をしている。そのまま脇目もふらず、まっすぐに私に向かってゆっくりと近づいてくる。いつもならそんなことなどあるはずもなく、私の顔には訝しげな表情が浮かぶ。

「なんだ、どうかしたのか」

「どうかしたのはあなたでしょう。この間、ジョウトでこんなことがあったそうですわ」

彼女はそういって新聞を渡してくる。そこの第一面には「ロケット団復活、そして壊滅」の文字が踊っている。ロケット団復活した?そして壊滅?私の知らないうちになにが起こってどうなったというのだ。そしてエリカはどうして重大そうにそのことを私に伝えたのだ。前者はわからないが、後者について私が予測できる答えはただひとつだ。

「疑ってるのか」

「当たり前でしょう。それに依然逃亡中だなんて、もしかしたら残党があなたに会いに来るかもしれませんわ。困ります」

幹部や他の奴らはきっと、私がまだカントーにいるとは思っていないだろう。私自身が逃亡する際はジョウトに逃げるつもりだったし、何人かにはそう言ってしまっている。だからこそこんな事件が起こったのかもしれないと思うと少し胸が苦しいが、少しはこちらの事情も考えて欲しいものである。
ロケット団絡みの事件が起これば、自分の過去を知っている者たちから首謀者ではないのかと疑われる。元ボスという名の前科を持つ身としては、この評価もまた仕方ないだろう。ただ今回ばかりはそう甘受する訳にもいかない。ボスのプライドとして、ただ黙って疑われていいものか。

「でもよく見てみろ、こいつらはラジオ塔を占拠しては私を探していたらしい。つまり関係ないし知らない、いい迷惑だ。」

ちゃんと、もっと綿密な計画なら呼ばれたなら行かないこともないが、とは思う。しかし今回のようないきなりの、ずさんな突然の面倒事なら自分とは一切関わりが無いし欲しくもない。そんな主張と理由をエリカに伝えるが、彼女は不服そうに私を見てくる。それだけではないということか。

「あらそうでしたの。でもまだ警察はあなたのことを探しているでしょうね。例え直接関係ないにしろ、あなたはまたロケット団のボスとして名前が電波に乗ってしまったのだから」

「そうだとしても、ならどうして私を匿っているんだ」

エリカの言う理由に重要性は感じられなかった。そして、彼女がそう思うのならどうして私を匿ったのか。そんな疑問が口からこぼれる。
彼女はそれを聞くと、極めてさりげなくではあるがいつもの笑顔になにかを少し含んだような、眉根が少し寄ったような、影を落としたような顔に変わった。そのまま眼を細めて一言私に残す。

「ただ力のある手伝いが欲しかったから、そしてまだ代わりが見つからないから、あとはただの気まぐれですわ」

彼女はそのまま温室の方へ、私に背を向け歩いていった。

「……そうか、そうか」

その言葉を論破する方法などいくらでも思いつくが、敢えて何も言うことはしなかった。自分でもわからないなにかがあるのは私だけではない、ということがわかっただけで、今の自分には十分だからだ。





ここにいるとは思えまい





サカキ様は逃亡中にエリカに拾われたという設定です。
セレビィのイベント?やってませんよ。
それでサカキがなんだかんだあってカントーにいるままなら、ラジオなんて聞こえる訳がないよなあ、というお話。






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