シルバー×グリーン/やまし様(8/13提出)
※学パロ
パチン、パチン。ホチキスで書類をまとめるという単純な作業が、かれこれ三十分は続いていた。今は新入生用の部活紹介の冊子を作っている。今日になって全ての部活のページが揃ったので、ようやく印刷して一部ずつ作り始めたところだ。
「無理しないで帰ってもいいんだぞ」
後ろから声が聞こえる。
「今日やっておけば後が楽だから」
「感心だな」
ほめられて良心がチクリと痛んだ。本当は、手伝えばグリーン先輩と一緒に帰れるという魂胆から。冊子なんて明日からとりかかっても十分間に合う。
パチン、パチン。俺は黙々と冊子を作っているし、先輩も静かに自分の仕事をしている。つまり今現在この生徒会室はものすごくシンとしていた。でもグリーン先輩といる時の沈黙は不思議と気まずくはならず、むしろどこか落ち着いて心地よい。
外も薄暗くなってきて、下校時間を知らせる放送が流れた。
「そろそろ時間だな」
先輩が席を外して、窓を閉める。
「シルバー、お前も今日はそのへんで終わりにしとけ」
「わかった」
明日スムーズに続きが始められるように、付箋にできあがった部数を書き込んで、一番上に貼りつけておいた。鞄に筆記用具を詰めていた先輩に一声かける。
「グリーン先輩」
「あ、そろそろコピー機のインク交換か?」
全然違う。というかのこと仕事じゃないし。
「その、途中まで一緒に帰ろうかと」
「なんだ、そんなことか」
恋人なんだから当たり前じゃないのか?なんて言ってくれた。素直に喜んでおきたいのはやまやまだが、生憎この先輩はレッド先輩なんかと一緒に帰ってる日も少なからずあり、いまいち『恋人だから』が信用できない節がある。ただ俺が嫉妬しているだけなんだろうけど。
学校を後にして10分、突当たりに近くなってきた。ここで先輩が突然足を止める。
「そうだ、ちょっと待ってろ」
グリーン先輩は俺を残して、来た道を戻っていってしまった。一体どうしたのだろう。
「シルバー!」
コーヒーは飲めるか?と聞いてきた先輩の横に視線を移せば、自動販売機があった。コーヒーは平気である旨を返すと、先輩は一本の缶コーヒーを手に戻ってきた。
「ほら、ご褒美」
付き合っている相手からの『ご褒美』の言葉に、一瞬でも別のことを期待してしまった自分を殴りたい。まあ今のはあれだ、不可抗力というか、いわゆる不慮の事故ってやつだ。そういうことにしておいてくれ。
「今日はお前は最後まで一人で頑張ってたからな」
普段は厳しいが、自分が頑張ったらその分だけきちんと評価してくれる。グリーン先輩の好きなところの一つだ。他?教えるわけないだろ。
先輩からおごってもらったけど、下心からの仕事だったので、やっぱり後ろめたさを感じた。
ここでふと、この前ブルー姉さんに『シルバーは詰めが甘すぎるのよ!』と言われたのを思い出す。付き合い始めて一ヶ月経っても何も進展してないから、否定できないのが悲しい。
リードできない俺が悪いのかもしれないが、グリーン先輩が鈍すぎるのも原因だと思う。レッド先輩やゴールドがベタベタしてくるもんだから、親友や後輩はそんなものなんだと勘違いしてるに違いない。現に俺と付き合いだしたにも関わらず、先輩は二人への対応を変えていない。つまり未だに、二人が先輩にベタベタしてくるという芳しくない状況のまま。
先輩は無防備すぎるんだ、と内心恨みながら缶コーヒーを受け取った。
「…ありがとう」
「どういたしまして」
でも微笑む先輩を目にしてあっさり機嫌を直す俺は、ゴールドほどじゃないが単純にできているようだ。
…もしかしたらこれは、お礼にキスとかできるチャンスじゃないか?さすがに外はまずい?でも今は周りに人もいないし、二人っきり。どうする?思い切っていくか?
「それじゃ、また明日な」
「え?あ…また明日…」
俺が缶コーヒーのお礼について理性と相談している間に、先輩はさっさと右に曲がって行ってしまった。俺の家はこの突当たりを左に行く方面だけど、ここは『暗いし心配だから家まで送っていく』とか言えばよかったかもしれない。後悔先に立たず。自分のふがいなさにため息が出た。
「…詰めが甘い、か」
いつまで経ってもこんな調子じゃ、先が思いやられるな。
自分の部屋に入って机の上に缶コーヒーを置く。ラベルを見てみると、微糖と書いてあった。先輩が普段から微糖を飲んでいて無意識の内にこれを選んだのか、それとも俺に微糖を飲むイメージを持っていたのか。もし後者なら、先輩が俺のことを考えながら味を選んでいたわけで。そんな先輩の様子を思うと、自然と頬が緩む。
缶コーヒーをもらったくらいでこんなに浮かれた気分になれるなんて、我ながら随分と安上がりな男だなと苦笑した。
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