ジャッキー×リュウ/眞神蒼空様(6/24提出)
どうも子供らしくない。
「…」
ふと気になった。
年はサトシと同じくらいのはず。
なのにこの差は何だ?
長男だからだろうか。
けれどサトシにも弟ではないが、マサトがいた。弟のように可愛がっていたのは知っている。
そしてそのマサトも彼の妹達とそう年齢は変わらない。
そんな事どうでもいい事が、何故か頭から離れなかった。
「相手になりませんね」
会場に響く大きな歓声に現実に引き戻された俺は、原因である少年―リュウを見つめる。余裕たっぷりのその表情は子供が浮かべるにはらしくない表情に見えた。
「バシャーモ、オーバーヒート!」
リュウのバシャーモはパワーも素早さも高めだ。よく育てられている。
タッグバトルのパートナー、ショウタのカメックスとも息が合っていて隙を見せる事もない。
バトルタワーでの経験が物語っていた。
「勝者はリュウくんとショウタくんだ!」
勝利を手にしたその表情は見ていて何かを沸き上がらせた。
しかしそれが何なのかまでは分からない。ただ、何かに侵食されるような感覚が襲うのは分かった。
「リュウお兄ちゃんすごかったよ!」
「バシャーモもお疲れ様」
「よぉし、バトルも終わったところで…次は腹拵えだ!」
ショウタの言葉にはーい、とオードリーとキャサリンが手を上げる一方で、リュウは後ろでその様子を眺めていた。
「リュウ、行くぞ!」
「えぇ」
スタスタと先を歩くショウタ達の後を、リュウもついて行く。
「…」
クールと言えば格好いいかもしれないが、子供には“すます”という表現の方が正しいだろう。
つまり、可愛くない。
「今はすましてるのが流行りなのか」
ぽつりと零れた言葉にリュウが振り返る。
先程の“何か”がそうさせている事も、目の前の少年が原因である事は分かっていた。
「それは僕に言っているんですか?」
「想像に任せるよ」
ぞくぞくする、その鋭い目つき。
一歩前に進んでリュウとの距離を縮め
る。
2回目の試合が既に始まっていて、殆ど人がいない。好機であると俺は更に距離を縮めた。
「別にすましてるつもりはありませんが?」
「それで、ねぇ」
「何が言いたいんですか?」
「別に。ただ…」
こちらを睨みつけるその目つきに口元が弛む。
彼の一つ一つの仕草や行動が“何か”を刺激してたおかげで、抑えきれない感情が体を動かした。
「っ!?」
気が付けば俺は、リュウの両手首を掴んで壁に叩きつけていて。
痛みに歪んだ表情を見て笑うなんてどうかしてる。
自分では抑えられない“何か”は俺の理性をも侵していくようだ。
せめてもの救いは周りに人がいない事だった。
「そういう余裕に満ちた表情、ぐしゃぐしゃにしたくなるよ」
「っ、ポケモンレンジャーからは想像出来ないくらい汚い台詞ですね」
「レンジャーである前に一人の男だからな」
「…できるものならどうぞ」
「できるさ、俺の辞書に“不可能”の文字はない」
「その辞書が役に立てばいいですけどね」
生意気なその目つきに楽しそうに笑う俺は俺ではないようだった。
ああそうか。これが本能というものか。
なら納得がいく。今までの行動も、これからする事も。
これが本能だというのなら従わない他ないじゃないか。
「生意気な子供だ」
「っ!?」
本能のままキッと睨み付けるリュウの口を塞いだ。相手は子供。いくら暴れても力の差は歴然だ。それに呼吸がうまく出来ないからか、力は簡単に抜けていく。
力では勝てないとようやく理解したリュウは最後の抵抗で俺の唇を噛んだ。
「っ、」
彼のつけたその傷口を舌で舐めると、鉄のような味が口内に広がる。
「はっ…」
動揺を見せる事無く睨み付ける瞳。
しかしそんなもので怯えるほど俺は臆病者ではない。それよりもこの状況で恐れる事なく刃向かう姿に感心していた。
「いいな、その目」
上下する肩、酸素を取り込もうと呼吸する濡れた唇。
自分がそうさせたのだと思うだけで心が満たされる。
ああ、そういう事か。
「必ず落としてみせるさ、リュウ」
自分で言うのもなんだが、それはさながら、悪魔のような囁きだった。
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