ゴールド×イエロー/音子様(6/16提出)





始めは、凄く優しい人だと思った。誰にでも優しく接する事の出来る、優しい人。それが、俺が抱いたあの人の印象だった。
でも、長く接していく内に、あの人の根本的なものが分かったんだ。あの人は優しい。誰にでも好かれる性格だ。でも、あの人はいつも一人で、孤独だった。
俺達が楽しく話して、はしゃいでいる時に、あの人は遠くから見つめているのだ。微笑ましそうに、それでいて羨ましそうに、こちらを只見ているだけ。
俺はいつしか、あの人を目で追うようになっていた。しかし、そんな様子をじっと俺が見ていた事に気付くと、あの人は決まって顔を真っ赤に染めながら、慌てて目を背けてしまう。
こっちに来れば良いのにと誘った事もあったが、お邪魔になってしまうのでと一回断れてしまったまま、それきり。

俺は、全然邪魔なんて思ってないのに…。シルバーやクリスだって、きっとそう思ってる。あいつ等はそんな奴じゃない。それはあの人自身も分かっている筈なのに、なんでそんなに悲しそうな、苦しそうな、複雑な表情で言うんだよ。

なぁ、イエロー先輩?


「イエロー、…先輩」

「ゴールドさん?どうしてここに…?」

「いやぁ、イエロー先輩に会いたくなっちまったんですよね」

「会いたくなったって、ジョウトからわざわざこのトキワの森へ…?」

「そうっスよ。まぁ、よくある事です。気にしないでください」

どう見てもありえないこの状況に、イエロー先輩は訝しげにこちらを見ている。まぁ、それが当たり前な反応だよなと、思わず苦笑してしまい、どうしたものかと頭の中で考える。
よくある事というのは、勿論嘘だが、会いたくなったというのは紛れもなく事実だ。只、衝動的にイエロー先輩と会いたくなって、気付いた時には、既にもう行動に移していたものだから、会った後にどうするのかとか、まるっきり考えなどなかった。
こういう所が、クリスにいい加減だと怒られるんだろうなと思ったりもしたが、今は置いておく事にする。

「俺、イエロー先輩と話しがしたいんスよね」

「僕には、話す事なんてありませんよ」

「そう冷たい事言わないでくださいよー。イエローせんぱい」

「冷たい事なんか、」

「じゃあ、どうしていつも他人を拒絶するんだよ?」

イエロー先輩は、俺のその一言に顔色を変えた。驚きに満ちた表情で、ゆらゆらと瞳を揺らして、イエロー先輩はこちらを見つめた。だけど、それもつかの間、イエロー先輩は俺から視線をずらしてしまう。まるで、それは自分で肯定しているようなものだった。

「拒絶、なんて、」

「してるだろ。じゃあ、なんで前に俺が誘った時に来なかった?それだけじゃないよな。レッド先輩や、グリーン先輩、ブルー先輩がどれだけ心配してるか分かってるよな。なのに、イエロー先輩はそれを拒否した。どうしてだよ?」

「……どうせ貴方には分からないです」

「あん?なんだって?」

「貴方には分からないです。正式な図鑑の所有者である貴方になんか、僕の気持ちは分からない!図鑑は3つで一つ。三人が一まとめになるんです。おまけである僕が、その三人の中に入れるわけがない。歳も違うし、カントーにもジョウトにも、僕が入れる隙なんてないじゃないですか!貴方みたいに、図鑑を持ってるからといって、仲間に入れる人とは違うんですよ…」

「……そうっスか。それが、先輩の気持ちなんですね?」

「………」

「そこまで言うんだったら、こうしてやるよ」


俺は、ポケットからある物を取り出した。それは、旅の間で散々世話になってきたものだった。
今からする事は、最低の行為だと分かっている。今まで利用するだけしといて、こんな事するなんて。でもな、俺は目の前にいる大事なやつを、それで救えるのならば迷わずそうするんだ。例え、大事なものを失っても。周りの信頼を失ったとしても。だから、オーキドのじいさん、すまねぇ。

深々と覆い繁る木々の向こう側に、俺は命一杯、それを放りなげてやった。随分遠くにいったと思う。カツンと良い音がした後、それは見えなくなった。

「な、何してるんですか!?」

「何って、図鑑を捨てたんスけど?」

「捨てたって、貴方はそれが何を意味する事か理解して言ってるんですか?」

「別に理解する必要はないっスよ。俺は、イエロー先輩が図鑑を持ってる俺には分からないと言ったから、捨てたまでっス」

「どうして、そこまで……」

「俺はイエロー先輩が好きだ。イエロー先輩には楽しい事や面白い事を沢山知ってもらいたいし、俺はイエロー先輩ともっと話したい。それをイエロー先輩が俺には分からないという理由で拒否するのなら、イエロー先輩と同じ世界を見て理解してやる」

それが、俺の答えです。
イエロー先輩―――。


「………」

するとイエロー先輩は、俺に背を向けて、すたすたとどこかへ歩いて行った。と思いきや、またとことこと戻って来て、俯きながら、俺の目の前で両の手を差し出した。
その手で握っていたのは、俺が先程投げたもので、俺の大事なものだったんだ。

「イエロー、先輩…?」

「…全く、馬鹿な人ですね。貴方という人は」

「真っ直ぐって言ってほしいっスよ」

「真っ直ぐにも程があります。本当に、馬鹿です。大馬鹿ですよ…」

あまりにも酷い言われようなので、馬鹿馬鹿言わないでくださいよ!
とツッコミを入れたら、先輩がくすっと笑ってくれた。ちょっと馬鹿にされてるような気がしなくもないが、今はただただイエロー先輩が笑ってくれた事が嬉しかったんだ。

「……僕、ゴールドさんには謝らなければなりませんね」

「本当は分かってたんですよ。所有者じゃないって事を免罪符にしてるって事は。只、勇気がなかったんです。皆さんに入っていける勇気が」

「イエロー先輩なら大丈夫っスよ。自信を持ってください」

「……ありがとう」

「それに……、」

それに、俺がついてますから。

俺がそう言うと、先輩は少し驚いた表情をした後、頬をほんのり染めながら微笑んでくれた。その微笑みに心を奪われ、愛おしいって思ったんだ。この俺が守っていきたい。イエロー先輩、もう貴女を一人になんかしませんよ。





(図鑑所有者的な意味で)孤独なイエローと、それを遠くから見ている、またはイエローをこちら側へと引き入れようとするゴールドに萌えています。
それを主張させてくれたこの企画と、主催者様。そして、見てくれた人達に感謝の意を込めて、ありがとうございました!

10.6.16







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