ダイゴ×ヒカリ/氷良様(6/16提出)





「ヒカリちゃんってさ、苦手なものはないの?」
「え、急にどうしたんですか?」

体を深く沈み込ませ、凛とした横顔を視線で捕らえながら、ダイゴはぽつりと問いを投げた。
驚くヒカリの後ろに広がる空間は、かつて自分がいたとは思えない程の鮮やかで明るい印象を与えてくるのは、やはり彼女の成せる業なのだろう。

「だってそうでしょ? バトルもコンテストも得意で、苦手なポケモンのタイプもない。化石掘りだって、手間の掛かる作業なのに楽しんでやってるじゃない?」
「あー、言われてみればそうかもしれませんね」
「ほらね。そっか、君には苦手なものがないんだねえ…」

なぜかため息を吐いてしまうほど、しみじみと事実を確認したダイゴに対して、ヒカリは無邪気に笑ってみせた。

「誰も『無い』だなんて言ってないじゃないですか」
「え?」
「あえて言うなら、ダイゴさん、かな」
「僕…?」

ガーン。そんな効果音が綺麗に頭の中で木魂する。
好きという言葉なら嬉しく、嫌いという言葉なら嘘だと笑い飛ばせる(本当だとしても、無理矢理こちらを振り向かせてみせる)。
よりにもよって、苦手の対象が自分。思いもよらぬ答えに、思わず口をつぐんだ。

「そう、ダイゴさん」

にこり、微笑む姿はどこか妖艶さを秘めていた。

「あなたはいい加減なようでちゃんと芯のある人で、私があなたに合わせているようで実はあなたが私に合わせてくれている」
「そうかな?」
「その笑顔も、深く追及されないように躱すものですよね」
「よく、見てるね」

核心を突かれると、人間、短い言葉でしか返せないらしい。
自分が彼女をよく見ているように、彼女もまた自分をよく見ていた。
期待していたことが現実になった喜びがあり、だが心の内をしっかり捉えていた彼女への戸惑いもあり、それでも短い言葉ながらも平静を装えたことを褒めて欲しい。

「私、あなたみたいに固いのか柔らかいのか、適当なのか真面目なのか、理解できない人って苦手なんです」

尤も、まだ苦手な人はダイゴさん以外に会ったことはないんですけど。
付け足された一文が、妙に耳に残った。

「言うね。僕はヒカリちゃんのことが好きなのに、傷付くなあ」
「ウソ。傷付いてなんかいないくせに」

……わかってるくせに。私の気持ちなんか。
ヒカリの少しふくれて見せた様子に、にこり。さっき彼女がそうしたように微笑んだ。

「理解できない苦手なダイゴさん。そんなあなたを解き明かしたくていたのに、知るたびにどんどん好きになっていくの」

いつの間にかヒカリはダイゴの隣にちょこんと座り、それがさも当然であるかのようにダイゴは彼女の肩を引き寄せる。

「けれど、理解できないことばかりで、やっぱり私は苦手です」
「でも、苦手なのは僕だけなんだろう?」

それは、自分にだけ興味を向けてくれているということ。
苦手という言葉を剥がすと、とても魅力的な感情がそこにある。

「ずっと苦手でいいよ」

それが君の興味を引き付けるのなら。

「だからその分、僕にもっと溺れて?」
「ダイゴさんが私に溺れてくれると約束してくれるなら、私も溺れます」
「うん、約束する。というか、もう溺れてるからね」

それならお互い酸素が足りなくなっちゃいますね。そう言って唇を重ね合わせた。
酸素を与えて貰うはずが奪われてしまって、もがいた場所は水ではなく胸の中。
私はこれからもずっと酸欠なのかなと、ヒカリは後悔に似た悦を感じていた。







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