宝物
それはきっととても幸せなこと(遊十/千尋様)
懐かしさに琥珀色の目を細め、語る声はどこか弾むような響きで、頬をほんの僅かに赤く染める十代さん。
ハスキーでどこか色気のある声は普段なら心地よく耳に届くのに、自分の知らない誰かを語られると心の奥がざらりと騒つく。
「(子供じみた嫉妬だ…)」
こんなことでは自分は十代さんに相応しくないと思うがどうしても抑えられない。
そんな自分の心情を知らずに十代さんは友人たちの思い出話を語り続ける。
「その時、ヨハンが…」
その名前は親友だと語られ、もっとも多く呼ばれている。
ぷつり、と何かがキレた。
気が付くと十代さんの腕を掴み、引き倒すように組み敷いた。何も考えられず、ただ、今目の前にいるのは自分だけなのだと、そんな嬉しそうに過去を語らないでほしい。
「遊、星…?」
驚きに見開かれた琥珀色の瞳には自分の顔しか映っていない。底知れぬ喜びが沸き上がる。
このまま衝動に任せてしまおうかと考えたが、それではこれからの関係性が変わってしまうかもしれないと思い、動きが止まる。
すると十代さんが微苦笑を浮かべ、手を伸ばす。
「十代…さん?」
まるで幼子をあやすように優しく髪を梳かれる。おとなしくされるがままになっていると、徐々に心が落ち着いてくる。
「すみません…十代さん」
ぽつりと呟けば、十代さんは気にするなと言って笑う。こんな風に宥められ情けない、そんな表情を見られたくなくて肩口に額を押し付ける。
「気にすんなよ……別に嫌じゃなかったし」
後の方が聞こえずえ、と顔を上げれば十代さんは慌てたように首を振る。
「何でもない!とにかく、気にすんなよ?遊星が気にすると俺もどうして良いかわかんねえからさ」
そう言って十代さんは俺をぎゅうっと抱き締める。躊躇いながらも抱き返すと十代さんの腕に力が入る。
「はい、わかりました」
「おう!」
頷いて言えば、十代さんは嬉しそうに笑う。つられるように笑みがこぼれる。
十代さんと比べたらまだまだ自分は子供かもしれないが、この腕の中にある温もりは確かなもので幸せだと感じる。
「遊星」
あの心地よい声で愛しそうに名前を呼ばれる。
「好きだぜ」
そう告げて軽く触れるだけのキスを落とす。
やはり幸せだなと思い、自分も同じだと伝えるために十代さんの唇にキスをした。
END
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「きみの心臓になりたい」管理人千尋様へキリリクを送らせていただいて
千尋様に書いていただいたお話です。
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