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宝物
悲しくって死んじゃうぜ(遊十←ヨハ/千尋様)
はあ、と深い溜め息がこぼれる。
ここのところ胸の内でぐるぐると渦巻く嫌な感覚に気が滅入る。何をしてもその感覚がすっきり晴れることはなく、本当に嫌気が差している。

「(原因は分かっているけど…)」

再び溜め息を吐くと、後ろから肩を叩かれる。振り返ればクラスメイトで友人の遊城十代がいた。

「溜め息吐いてると幸せが逃げてくぜ、ヨハン」
「十代…」

十代の明るい笑顔に胸中に渦巻く嫌な感覚が薄くなっていくのと同時に、胸の奥が鈍く痛んだ。

「別に何でもないさ」

僅かに十代から視線を逸らしそう言うと、気付かれないようにひっそりと溜め息を吐く。
ここ最近自分の中で燻っているどす黒く嫌な感覚の原因はこの十代にある。ただ十代自身が悪い訳ではない。
一年前から十代のことが好きだ、結局告白出来ないでいるが今も好きなのに変わりはない。

「十代は帰らなくていいのか?もう皆帰ったぜ」

放課後の教室には自分と十代しかいない。今は二人きりが何となく気まずくてついつっけんどんな言い方になってしまう。

「いや、帰るけど…さ」

言い淀む十代をちらりと見れば、微かに頬を赤く染め目線を彷徨わせている。
その表情で分かってしまう、十代は待っているのだ。再び吐きそうになる溜め息を何とか飲み込み十代から視線を外した。
十代は言わないが今恋をしているのだ。そしてその相手と付き合っている。恐らく一緒に帰る約束をしているのだろう。

「(…嫌な、感じだ)」

じわりじわりと沸き上がる黒い感情に顔をしかめる。その時、教室の戸が開いた。

「失礼します」

そう言って入ってきたのは後輩の不動遊星だった。礼儀正しい彼らしくきちんと挨拶をする。こういうところは非常に好ましいなと思っている。

「十代さん、にヨハンさん、お疲れ様です」

微かに笑みを浮かべて言う遊星に何とか笑顔を返し、おうとだけ答えた。

「俺遊星と一緒に帰るから」
「あー…また明日な、遊星も」

あからさまに嬉しそうな表情で遊星の傍へと駆け寄る十代におざなりに手を振る。
十代は笑顔でまたな、と言って大きく手を振り、遊星は失礼します、と言って会釈し二人は教室から出ていった。
遠ざかっていく足音を聞きながら、深い深い溜め息を吐いた。
ふいに窓を見れば丁度二人が出てくるところで、並んで歩くその様子は非常に仲睦まじい。

「ちくしょう…」

ぽつりともれた言葉は誰にも聞かれることはなく、二人の背中がじわりと滲んだ。



END



title:ごめんねママ



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「君の心臓になりたい」管理人千尋様からキリリクでいただいた小説です。

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