夕刻3
数日後。私は、誕生日のお祝いに劇を見に連れていってくれる事になった。……わーい。
「お母さん……私、いいよ? そんなたかだか私の誕生日何かに」
「もう! 遠慮しないの! お母さん、知ってるんだからっクレハちゃんがこの劇のポスターをずっと見てたこと! 子どもはもうちょっと可愛らしくしてたらいいの」
「……むぅ」
「クレハはこの年頃に必要な、甘えが足りないぞー。さぁ、遠慮をせずにお父さんの胸に飛び込んでおいで!」
「お母さん大好き!」
「お母さんもクレハちゃんの事大好きよ!」
「――あれ、おかしいな。クレハちゃんが反抗期?」
うん、違うよ。無視しただけと笑いながら言えば、お父さん泣いちゃうぞ! と鼻水をたらしながら涙を溜めて私の事を見てきた。
ごめんね、お父さん。ちょっと遊んでみただけなの、なんて。私も、これから観にいけるものに、少しだけワクワクして浮足立っているという事かな。
劇場は、もう直ぐ近く。スキップをしたいくらいに舞い上がっている私は、それを目に入れた直後、走りだした。
「ほら、お母さんみてごらん! クレハちゃんがあんなにはしゃいで」
「子どもなんだから、それくらい当然でしょう?」
「何だか今日はお母さんまで冷たいみたいッ!!」
「早く! 早く、中に入ろうっ?」
ああ! なんて楽しいのだろう!
子どもで良かったと思える、そんな会話。
ご希望のものが見れた後、私たちは仲良く家に帰った。途中でお父さんが抱きついて来たけれど、髭がジョリジョリして痛かった。
―――まぁ、嫌じゃあなかったけれどね。
―――*−*−*―――
結末から言うと、凄く楽しかった。というか未だに興奮冷めやらぬと言った気分だ。
機会があったら、またお父さんも連れて、三人で来ましょうね? なんて笑っているお母さんに、私は感謝の意を伝えた。すると、お父さんが私の方を見てにっこりと笑う。
「また今度も3人で行こうな、クレハ?」
「それと同じことをさっきお母さんにも言われたよ」
「……なっ!?」
「あなた如きが……ふっ、甘いのよ。甘甘なのよ」
「元気だして、お父さん」
ガクリと分かり易く肩を落とすお父さんを慰めながらも、私はお父さんのその様子がおかしくて笑ってしまう。
それで更にお父さんがオーバーにショックを受けた体をとるから、私は更に更に笑ってしまって。
――ツボに入ると、人間笑いで死ねるんじゃないのかなって言うくらいに笑って。
私は、そこで気づいた。
私がこんなにも色々な事がとてもとても楽しく感じるのは、近くにいる身内の存在が居るからこそで。
もっと言うなら、大切な人が居るから面白い。
……こんなことに気づけたのも、周りの環境あってこそだと私も思う。ひっそりと、心の中で感謝。
こんなにも幸せで、楽しくて、面白くて、嬉しいことがたくさん続く。これが普通じゃないって事くらい、分かってたつもりだったのに。
――いつの間にか、当たり前に感じる自分が居たりして。
忘れてはいけない事を忘れていた私が居たから、神様は天罰を下す。
本当に、ずっとずっと私にとって『楽しい』が続くと思っていた。
私は、それが脆くも直ぐに崩れてしまう物だという事を忘れていた。
バイバイ。ありがとう。
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