夕刻1
そうだね。例えるならば、何かがぴったりと型に嵌った時のような。そんな感じ。
それが、『私』が次の『私』として世界を歩み始めて最初の感覚であった。違和感はあるけれど、拒絶したいほどでもない。嫌悪感は感じない。
何に対しての違和感かと言うと、何故私は意識があって、こんな事を考えているのかという事に対してだ。馬鹿な事を考えた私は、周知の通り、あんな事になっちゃった訳でありまして。意識なんかが残っているワケ無いのだ。
となると、今ここに居る私は一体何で、どういう存在なのだろう。幽霊? ――なんて、そんな馬鹿な。
「だとしたら、何て夢の無い」
……なんて、周りを見回しても誰もいない場所で呟いてもただ、寂しくなるだけなのだけれども。この、静まり返った空間で、何か音が聞きたかっただけだ。
そのせいで、余計に虚しさが増したけれど。
笑えない冗談だ。何せ、今の私には『体』が無いのだから。冷静に見下ろしてみて、初めて気が付いた。というか体が無い状態で、今私が行っている行為が果たして『見下ろす』という物になるのかは甚だ疑問であるが。
兎に角、私はあの世界から逃げ出したのだ。私にとって最善で、最悪な手段を取って。なのに、幽霊になって未練がましく、しがみつくなんてまっぴらごめん被る。
―――ガクンっ。
突然過ぎる、その振動に私は思わず、
「……っとと!」
声を上げる。勿論、体が無いのだから傾く物もそうはならないのだが、反射的に声が出てしまっ――あれ。
気のせいじゃ、無い?
―――引っ張られてるっ!?
再び私の意識が沈下するのに、そう時間は要らなかった。――私の『視界』は暗転した。
―――*−*−*―――
次に私の意識が浮上したとき、そこは『また』見知らぬどこかであった。意識が暗転する前、つまり先ほどと言っていいのか迷うところではあるが、少なくほどその場所とこの場所は違う場所である、と思われる。
何故なら、あそこは暗闇だけでほかには自分以外、何も無いように感じられたけれども、ここには音がある。
視界が悪く、皆まで見えることは無いが、ここには何かが居る。且つ、今の私には体がある。そして、私は状況を理解した。
思うように動かない手足、見えづらい視界、極めつけは、
「あら、可愛い。女の子なのね……じゃあやっぱりクレハちゃん、なんてどうかしら?」
「ああ。それでいいんじゃないか?」
「うふふ……、可愛い可愛い私の赤ちゃん。今日から、よろしくね」
―――それらが、全て『私』に向けられているという『事実』。そうか、これが――
(転生、というやつか――なんて)
それが私がこの可笑しな状況を頭の中で整理して、理解した結果だった。
新たな自分へ。前の私より。
おめでとう、そしてせめて前よりも幸が多くありますように。心よりの祝福を貴女へ。
……とりあえず。
「……ぅあ、あああああっ!」
産声でもあげて、一眠りしましょうかなんて。
それが私、私――クレハ・ウィリアムスとしての第一歩。
新しく、末永くよろしくお願いします。
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