夕刻8
「ひま、だなぁ……」
私は、はぁ……っとため息をつく。
いつもはてんてこ舞いでくるくると働かなくては、なかなかに仕事が終わらないのに、今日は特別にすることがなかった。
なぜなら、それは数時間まえにさかのぼる。
『子どもはやっぱり遊ばなくちゃだめだよ! ほら、風の子だから!』
『団長――、意味が分かりま』
『はい、今から休みね! すぐに休みね、こんな時まで働いてちゃ駄目だよ』
『待って下さい、わた……』
『あーあー、聞こえなーい聞こえなーい』
言うなり、私が何かを喋ろうとするのも構わずに、ぺいっと外に出されてしまった。
こうなると他人の言うことを聞かない人なので全くもって私の話なんて聞いてくれるはずも無く、団長ーと呼んでみるも何も返してはくれなくて。うふふふふーっと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
『子ども』である『私』よりも、幼いようでいて、団長などという組織のトップがよく勤まるものだと常々感心していますよ、団長。
と、言う事で。
今の私は、特別に暇を持て余していた。暇で暇で、暇暇だった。……いや、自分でいっといて何だけど、暇暇って何。
と。ザッという土を踏む足音が聞えて、私は振り向いた。そこには、いつものピエロのようなメイクを落とした、マナがいた。
「ちょっと外に出ましょうか、クレハ」
突然のお誘いに、びっくりする私だけど。特に断る理由も無いし、今日は団長さんが休みをくれたから、迷わず頷いた。マナがこんなことを言ってくるのは、めずらしい。
久しぶりに、いわゆるプライベートというものを過ごしてみようか、と思う。
自分からでかけることのない私は、団のご飯を作るための食材を買うときぐらいしか、外に出ることもないし。何より、マナと出かけるのが、楽しみだった。
街に出て、ショッピングモールというのだろうか――についた。ずらりと並んでいる店に心が躍る。サーカスのテントを張っている近場でしか買いものをしたことが無かったけど、こういうところがあるのかという新しい発見。
洋服屋におもちゃ屋、さまざまな店が並ぶ中でマナは行き先はそこではないという風に、迷いなく進んでいく。
行き先を知らされるわけでもなく、ただただ歩かされているだけの私は耐えきれずにマナに問いかけた。
「ねぇ、どこに行くの?」
「さぁ、どこだと思います?」
「……質問に質問で返されても、困ると思うんだけど。すくなくとも、私は困る!」
「まあまあ。そう言わないで、付いてきてくれたら、分かりますから」
「もうっ……、分かった」
こういう時にマナに何を聞いても同じだということは、学習済み。だてに時を同じにしているわけではない。
あきらめて、黙ってついていくことが、私に出来る精一杯の反抗だった。
ふて腐れて、ふいっと横を向く。そんな私をみて、マナが笑っていることも分かっているから、私は益々へそを曲げる。我ながら、なんと可愛くない子どもでしょうか!
いつの間にか、モール街を過ぎて、人で溢れかえっていた辺りは段々と人気を無くしていく。いったいどこに行くつもりだというのだろうか。そういえば、目的すらも聞いていないけど、買いものじゃ無かったのね。
どこに行くつもりよ、と何気なく目をやった場所に。
――ちょっと待ってよ。
私はマナの洋服の端っ子を軽く引っ張る。
「マナ! ねぇ、マナってば!」
「そんなに強く引っ張らなくても、もうすぐ着きますよ」
「違う――、でもそれも気になるけど! でも、いまはそうじゃなくって!」
上手く伝わらない思いに焦れながら、私は。子どもがいるの、とマナに強く訴えかけた。
(いつ、降ってきたのか。少年の周りには雪が舞う)
(そういえば、今日は聖なる日でした)
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