Please smile,lady?(馨/桜)
「いーじゃん。僕もついてるし」
「嫌!絶対ッ!馨1人で行って来なよ!」
「‥僕1人で行ってどーするのさ」
僕の誘いに先刻から断固拒否の姿勢を崩さない姫に苦笑い。
まったく、彼女の恐がりにも困ったものだ。
‥ていうか、そんなに嫌がられるとさすがに哀しいんだけど。
「あっ、馨!あっちのジェットコースターにしよう?!」
「ヤだ。僕はこっちがいーの」
今度は僕が拗ねたふりをして仕返
しを。いい加減2人共イライラし
てきてるのを肌で感じるけど、負
けてなんかあげない。
そうこうしてる内、とうとう怒鳴られてしまった。
「‥何でそんなにお化け屋敷にこだわるのよ!?」
そりゃ、まぁ。
男の浪漫、とでも言っとく?
全然悪怯れない僕を見てもう怒る気力もないのか、姫はぐったりして溜息をついた。あと、もう一押し。
「ね、姫行こうよ。‥‥僕が守るから」
「‥馨‥‥‥わかった」
俯いたままで上目遣いの視線を送って寄越す。我が彼女ながら、何て可愛いんだろう。
こうして、僕と姫はお化け屋敷へ。
「うぅ〜‥‥」
「姫、大丈夫?」
「無理。何ここ怖すぎ!」
1歩目から既に僕の腕にしがみ付いてる姫の頭を撫でて、更に奥へと進む。
ここは廃病院って設定らしくて、そこらかしこに気味悪い医療道具が落ちていた。
少し歩いたところで、右前のドアから白衣のお化け(まぁ、人間が演技してるんだけどネ)が飛び出してくる。それを合図にか、次々出てくるお化け達。姫はひたすらキャーキャー言って僕の手を力一杯握っていた。
怖くて動けないらしい姫を何とか引っ張って次の部屋に進む。
ここは手術室へと続く廊下のようで、結構長かった。何だか廊下の両脇が怪しいけど、姫に言うと絶対怯えて進めなくなるから黙っている。下手なことを言うまいとするが故に、先刻から僕「大丈夫だよ」ばっかり言ってる気がするなぁ‥‥。
案の定、3歩くらい進んだところで左の壁から血だらけのお化け登場。僕は姫の手を引いてダッシュ。肝心の彼女というと、もう恐怖で目を閉じてしまっている。
バタン!
勢い良くドアを開けると、目の前に広がる手術道具や血溜り。ご丁寧に手術台には患者が横たわってる。
「‥怖い‥‥」
「大丈夫。動きだしたら走って逃げれば良いんだから」
「‥‥‥」
あまりに怯えている姫を見ていると、何だか悪いことをしたなぁと申し訳なくなる。ここを出たら思いっきり優しくしてあげよう。
「‥行くよ?」
「うん‥‥」
そろそろと歩きだす。手術台の右を通ってその向こうにある扉を目指した。
「うがぁあッ!!」
「きゃあぁぁああ!!」
「姫、行くよっ」
がばっ、と起き上がりこちらに手を伸ばしてくる患者お化け。姫は恐怖と驚きに絶叫して僕に抱きついた。少し走りにくいんだけど、僕も抱き締め返して一緒に走る。
扉を開けると‥‥って、この台詞どっかで聞いたな。
「今度は病室かぁ」
「‥‥っく、‥っ‥‥」
「Σ姫!?」
姫の嗚咽を聞いてギョッとした僕は慌てて彼女の顔を覗き込む。ぽたぽた落ちる透明な雫に掛ける言葉が見つからなかった。
(僕の所為だ)
(僕が無理に誘わなかったら、姫は泣かなかった)
「‥ごめん‥姫‥‥」
「こわ、い‥‥もっ、やだぁ‥‥」
「ごめん、ごめん‥‥!」
泣き止んでくれない姫を前に、謝ることしかできない僕。何て情けないんだろう。
悔しくて、
悔しくて。
僕は。
「‥行くよ、姫」
「かおる‥‥?」
頭に疑問符を浮かべた姫、次の瞬間には驚きの声を上げる。
「馨降ろして!」
「嫌だよ。姫を抱っこして出口まで走るから、しっかり掴まってて」
「アタシ重いし‥‥!」
全然平気。そう言って笑ったら姫はすごくびっくりした顔して。それから、少し赤くなって僕の肩に顔を埋めた。
僕は走る。
姫を泣かせた罪は重いけど、少しでも軽くなりますようにと願って。
「やっと、出口だぁ」
外の明るさに目が眩む。僕の一言で姫は顔を上げた。
「大丈夫だった?」
「‥‥うん。怖かったけど‥馨がいたから」
本当は、姫がお化けの声とか物音だけで震えていたのを知っていたけど、あえてそれには触れずに笑い掛ける。そしたら姫も笑ってくれたから、ほっとした。
「‥‥ごめんネ」
「気にしなくていーよ」
青空の下、2人笑って。
嗚呼。
いつでも、優しい君が笑っていてくれますように。
もう涙なんて流させない。
大好き、だから。
(コメント)
馨と恐がり姫のデート。
いやー何を隠そう私もお化け屋敷ダメですね。恐怖は映画とかテレビのなかだけで結構です。
[*back][next#]
[戻る]
無料HPエムペ!