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【3位】ルチカク
十字架の前でキスしよう








静かな部屋で、微かに聞こえる涙の音。

小さな呼吸。












「おはようさん」
「‥‥ああ」
「何じゃ、また低血圧かのう?ルッチ」
「‥‥‥」


じっと見つめられたところで、会話が止まる。

何を見ている?



ワシの‥‥目か‥‥‥?





不思議に思い、問うべきか否か迷っていると、あちらから声が。


「なあ」
「‥‥?」
「何故目が赤い」
「?!‥‥あ、赤いかのう」
「あァ」



嫌な沈黙。

どうして良いかわからず固まるワシと、普段通り無表情のルッチ。






「‥‥の、のうルッチ」
「何だ」
「他の奴らには、言わないで欲しいんじゃが‥‥」
「何をだ」



意地悪く光る瞳。不敵な笑み。


嫌な予感。


「‥‥大丈夫だ。奴らにお前が夜中に1人で泣いてたなんて言わないさ」
「ルッチ!」


ニヤリと笑ってからこちらに背を向けると、そのまま立ち去ろうとする。慌てて追いかけ、咄嗟に腕を掴んだ。

振り返るルッチ。


グイ、と掴んだ腕を逆に引っ張られたような気がしたのは、錯覚ではなかったらしい。



「なにっ‥‥?!」


自分が身を引くスピードより、彼に抱き寄せられるスピードの方が早かった。簡単に抱き留められてしまい、少々困惑した。


「人に見られる、聞かれるのが嫌なら、二度とそんな顔はしないことだ」
「そんな、ってどんなじゃ」


強気に言っても、全く気にも留めていない様子の相手。

無性に腹が立つ。





「鏡を見ればわかる。兎みてェな顔してると、狼に狙われるぞ」
「‥‥ジャブラはお主みたく意地悪じゃないわい」


ふ、と無言のまま苦笑しつつ、ルッチの黒い瞳が近付いてくる。抵抗することを諦めたワシは、素直に目を閉じる。



いつだってそうだ。お主はワシを子供扱いして。

独占したくて堪らなくて。

厳しいことばかり言って。





‥‥それなのに、優しくて。



嗚呼、まるで泥沼。












「お主ばかり余裕で、狡い」
「そうか?」
「そうじゃよ」
「‥‥確かにな」


耳まで真っ赤だぞ。そう、いきなり耳元で囁かれた低い声に肩が揺れる。

ククク、と笑われて、更に悔しくなる。



「そう怒るな」
「怒ってなどないわい!」


必死にもがいてその腕から逃れようとするも、あっさり顎を掴まれた。



気付いた時にはもう遅く、目の前には先程と同じ余裕の笑み。





その後の長い沈黙を予期し、小さく溜息をつきながら目を閉じた。



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久々のルチカクをお届け!
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あきゅろす。
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