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【3位】田花(♀梓)
万華鏡のむこう





田島が自分に付き纏うようになったのは、多分高1の夏休みが始まった辺りだったと思う。

暑い日だった。野球部は確か遠征に出ていて、いつも賑やかなグランドは静まり返っていたのを覚えている。

自分は中学生時代ソフトボール部に所属していて、自慢じゃないがキャプテンもやっていた。西浦にソフト部が無いのは仕方ないと思えたのだが、やはり時々恋しくなる。

がらんと空いたグランドを前に、つい足を踏み入れた。遠征に不要だったのか、残されたバットとボールを手に取る。



コン、コン‥‥

バットとボールのぶつかる音にじんわりと浸っていた、その時。













「あれー?花井じゃん!」


どこかで聞き覚えのある声。あれは確か9組の田島だ。ということは、野球部が帰ってきた訳で。



「何してんの?」
「‥‥え?‥あ、いや」


勝手にグランドに入り、その上許可もなく部の物を触っていたのだから、その質問も当たり前だ。

しかし何故か慌てて答えに詰まってしまった。田島のじろじろといった視線が刺さる感じがして居心地が悪い。





「花井さん、中学ソフトボール部だったんだよね?」
「‥‥ああ‥そう、だよ」
「あ、何だそっか!」



同クラスの水谷に助けられた。田島はそれを聞いて納得したのかニコニコ笑っている。

それどころか、思いもしないような台詞が返って来て。










それなら、オレとキャッチボールしよ!











「‥‥は?」
「いーじゃん、花井デカイからけっこう投げれそうだし!」


有無を言わさず腕を引かれれば、コンプレックスである身長のことを言われたのに文句を言う間もなくグローブを渡されていた。ある程度の距離を取った田島と向かい合う。





「じゃ、いくよー!」
「え、ちょっ待ってよ!」


ひゅ、と風を切ってこちらに向かってくるボールが一瞬、太陽と重なった。

さり気なく手加減されている悔しさとか、何でいきなりキャッチボールなのかとか、色々言いたいことはまあ、置いといて。





綺麗な放物線を描いた白球の懐かしさに、自然と体が動いて、気付いた時には笑顔になっていた。


きっと、多分、田島(と他の野球部員)は悪い奴じゃない。

‥‥のかもしれない。





+−+−+−+−
初の♀梓でした。
なんか色々変ですが初めてってことで許してください;;

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