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失われない笑顔



阿部のことは好きだ。

そりゃ恋人なんだし当たり前なんだけど。

だけど、恋人以上の関係は想像した事もなくて。




















「へえ?それで、俺達結婚しますって惚気に来たわけ?」
「‥‥栄口‥‥‥」


元チームメイトの満面の笑みからさり気なく視線を逸らして、昼食の蕎麦を一口食べる。柔らかい笑顔の下にどんな黒い感情が込められているかなんて気付きたくはないから。



「‥‥で、本当の用件は?」
「水谷に、何か聞いてないかなってさ」
「水谷に?」
「阿部と同じ大学だったろ」


俺の言葉にあぁと栄口は頷いて、何も聞いてないけど、と続けて言った。


「親と喧嘩して大学辞めちゃうとか、らしくないね」
「そうなんだよ。家出は何回かあったんだけど、今回は様子が違くて」
「ふうん‥‥」


栄口はそう言ったきり黙り込んでしまった。どうしたら良いか模索しながら蕎麦を啜っていると、思い付いたように栄口が言う。



「家族の問題は、家族で解決できるよ。きっと」
「‥‥俺、だって」
「結婚したら家族だって言うの?あのね花井、俺達の恋愛はそんなに簡単じゃないんだよ」
「わかってるよ」
「全然わかってない。どんなに2人が愛し合った所で籍は入れられないし、子供だって出来ない。
第一、俺や阿部は他の男達から奇異の目で見られ兼ねないんだ」


その真剣な言葉に何と言ったら良いのかわからなくなる。だったら、結婚しようと言った阿部のあの笑顔を前に俺はどうすれば良かったと言うのだ。



沈黙だけが漂う。それを破ったのは栄口だった。ごく、とセルフサービスの水を飲んで、ことん、とコップを置いた。
そして一息ついて。










「ま、何でも良いけど。ただし阿部泣かすようなことしたら承知しないからね」





その笑顔は本日1番の輝きと黒さを持っていて、花井は口端を引き攣らせて笑った。

























確かに、俺達の恋愛には常に困難が付き纏う。

でも、だからこそ、阿部。

絶対幸せにしてみせるから。




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