御馳走される現状
疲れてるみたいだったから、起こさないように家を出た。
大人しく、そう手紙には書いたけど正直不安で。
急ぎ足で家に帰った。
「‥ただいまー‥‥」
「おかえり」
家に入ると阿部の姿が見えてホッとした。出迎えに玄関までやって来た阿部は昨日と朝見た時と違っていて。あれ、と思っていると。
「どうしても風呂入りたくなったから借りた。あと服も」
「‥‥あぁ、うん」
どうりでサイズが合ってない訳だと納得する。今では11pも身長差はないものの、まだ俺の方が若干デカイ。当然俺に調度良い服だって阿部にとっては少し大きかったようだ。
話を聞くと、阿部は俺のいない間に部屋の掃除に溜まっていた洗濯(サボっていた訳ではない)、おまけに夕飯まで作ってくれていたらしい。
「わ、うまそう」
「美味そう、じゃなくて美味いんだよ」
「はいはい」
ムッとして言う相手の頭を撫でてやる。あ、そうだ。こんなことしてる場合じゃなくて。
「阿部、お前ずっとここに居るのか?」
「‥‥ダメか?」
「ダメじゃねーけど、大学は?」
今はまだ6月。いくら何でも夏休みには早過ぎる。それに夏休みだとしても突然来るというのはおかしい。サプライズ、という訳でもなさそうだったし。
「‥‥‥」
「着替えとか持って来てねえの」
答える気がなさそうなので質問を変えた。阿部は俯きながら言う。
「‥携帯と、財布しか持って来てない」
「家の人には?」
「‥‥黙って来た」
罰が悪そうに呟いた阿部は完全に下を向いていた。これ以上聞いても追い込むだけだと思って、くしゃりと髪を撫でてやる。
「‥‥花井」
「ん?」
「しばらく、ここに住ませて」
その声が今にも消えそうで、俺は頷くしかなかった。
嬉しいはずの恋人との時間は面白いほどに不安で塗り固められていって。
何も言わない阿部に、俺は少し強引な手段を取ろうとしていた。
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