泣き顔に口付け *微
もう、いらない。
花井が傍にいてくれないなら、何もいらない。
カラン‥‥
榛名の家に着いて、しばらく泣きまくって、ハッとしたオレは帰ると立ち上がったものの何処へ?と問われ閉口した。
帰る場所など無いのだと、自棄になって飲んだ酒のグラスの中で氷が踊る。
昔とは違う質の良さそうなベッドに押さえ付けられても、もう抵抗する気も起きなかった。
「‥‥あんまり大人しいと変な感じだな」
クスクス笑って言いながら、元恋人は付き合っていた頃より丁寧に前戯を施した。もういつでもひとつになれる、そういう状態。
「‥‥いくぞ、」
首筋に吸い付かれながら、榛名のがオレのそこに宛てられる。あぁもう戻れないんだと思うと少し胸がチクリと痛むけど、今この瞬間に目の前にいるのが花井じゃないなら、花井が自分に触れてくれないのならどうでも良かった。
(あ。くる)
ぼんやりとした頭でそう思ったとき、ふと入って来たのは携帯の着信音。この曲は確か、‥‥
「はない」
一気に、酔いも何もかもから醒めて、急激に恐怖に襲われた。
「‥っ、やだ、いやだッ!!」
「‥‥今更抵抗すんなよ」
「や、助けて花井ぃ‥‥!」
必死に榛名の下から這い出て、携帯に手を伸ばす。着信はやっぱり花井から。
「出させねえよ?」
「‥‥っあ」
通話ボタンを押そうとしたら後ろから押さえ込まれて、ボト、落としてしまう。ず、と再びベッドに引きずり戻されて、もうこの手には届かない距離になってしまう。
ダメだ。そりゃそうだよな、勝手なことばっかしてて、バチが当たったんだ。
「たっぷり可愛いがってやるからな、タカヤ」
「っあ‥いや、やだっ助けて!花井!!」
「暴れんじゃねえ、よっ」
「ひっ‥‥んん!」
無理矢理に捩込まれて、息を飲んだ。しかもそのままキスされたもんだから、苦しくて仕方ない。
あの時、何度花井の名前を呼び、その度に何度榛名に酷い扱いを受けたかわからない。
花井、ごめん。
オレもっと素直になるから、またいつもみたいに笑ってよ。
.
[*Back][Next#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!