カケオチごっこ
野球から地元から離れて3年。
東京に就職先を決めて、一人暮らしを始めて。
最近溜息増えたなあ、なんて思ったりして。
「あー‥疲れた‥‥」
独り言呟いてアパートまで車を走らせる。1人なのだからと借りた部屋は1K。まあ広過ぎても掃除とかが大変だし別に良いけど。
駅もスーパーも近いし、職場には車で20分程度。家賃も調度良いしこんな好条件では文句もない。
俺の住んでいるアパートは1階。外から直接入るから、玄関のドアは駐車場からよく見える。いつもの風景に違和感を覚えたのは、車を停めて降りた時だった。
(あれ、誰かいる?)
俺の部屋のドアの前に蹲っている人が。恐る恐る近付いて、しゃがんで顔を覗き込んで。
「‥‥阿部?」
「あ、はない‥‥?」
眠っていたのか、少し回っていない舌で俺の名前を呼びながら顔を上げた。そこで確信する。今目の前にいるのは紛れも無く俺の恋人阿部隆也だった。
「何でここに?」
「いいから‥家入れて」
まだ眠いのか目を擦って言う。とりあえず鍵を開けて阿部を立ち上がらせると部屋に入った。
「ほら、降ろすぞ」
「花井ぃー‥会いたかった‥‥」
ぽつりと呟かれた台詞に顔が熱くなる。どうしたというのだ、いつもの阿部ならこんなこと頼んでも言わないのに。
「阿部、何で来た?」
「電車‥‥」
「家の人には言ってきたのか?」
阿部は西浦高校卒業後、大学に進んだ。実家暮らしだからまさか家出かと思って聞いたのだが、質問に答えず黙って首に腕を回してきた。
「阿部?」
「今日泊まるから‥‥」
ドキリとしたのもつかの間、阿部はそれだけ言うとベッドに寝転んだ。余程疲れていたのかすぐに寝息が聞こえてくる。
(明日聞けば良いか)
どうせまた弟と喧嘩したとか何かだろう。そう思って阿部に布団を掛けてやると俺はソファに横になった。
久々に会った阿部の手が少し震えていて、無理に帰すなんてこと出来なかった。
だからといって抱き締めて眠るには理性を保つ自信がなくて。
高校の時よりは遥かに歯止めが利くようになったつもりだけど、やっぱり阿部が好きだから。
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