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なんて不器用な人





花井の家を飛び出して、携帯1つで街を歩く。

もう外は真っ暗で、無性に心細くなった。

いくら泣いても、あの大きな手は拭ってくれなくて。












その夜は、近くの公園で寝た。花井がいないというだけでどうしてこんなにも涙が溢れるのだろう。



(これから、どうしよう‥‥)


実家には帰りたくない。花井のもとへは帰れない。それより財布すらないこの状況で、どこへ行けると言うのか。





捨てられた犬ってこんな気持ちなのかな、なんてらしく無く考えながら歩く。行く宛てもなく歩く街は周りだけが妙に明るく見えて、自分だけが疎外されているようだった。



(花井‥‥)



こんなになってまで頭に浮かぶのはあいつの姿。声、優しい仕草。どれだけ花井がオレの中にいたのか、このたった数時間で思い知らされた。















ふらふら街を歩いていると、部活帰りらしい高校生が5、6人で歩いているのを見た。途端に思い出される、自分達の高校時代。


戻りたいのだろうか、オレは。この前だって、気付いた時には西浦高校のグラウンドにいた。理由はわからない。けど、少なくとも、今この瞬間オレは戻りたいと願っている。花井と笑い合っていたあの時間をまた手にしたいと。





もう足を進めることは出来なかった。人はどんどん流れて行く中、オレだけが立ち止まっている。誰も気にかけない。これでは本当に独りになってしまった。寂しい。オレはその場に踞った。


いっそこのまま、消えてしまいたい。この街の風景にでもなって、何も考えず一生を終える方が幾らかマシだろうか。

不意に涙が零れた。止まりそうにないそれをそのままにして、踞ったまま動くのを諦める。








「隆也?」





どれくらいの間そうしていたのだろうか、聞き覚えのある声がオレを呼んだ。足音が近づいて来て、顔を上げる。



「‥‥元希、さん」


口を突いて出たのは、中学のシニア時代、恋人同士であった頃の呼び名だった。

頬を伝う涙にはっと気付いて視線を逸らしたが、その強い腕で抱き締められれば再び涙が溢れ。



「なんで、こんなとこで泣いてんだよ」
「っ‥‥もと、きさん‥」


気付いた時には、縋り付いて泣きじゃくっている自分がいた。街中だというのに恥じる余裕もなく、周りも見えない。
宥めるように背中を撫でるその手が、その人しか、今のオレにはなかった。














「うち、来いよ」



泣きながらオレは、頷いた。




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