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ぼくらこの狭い街中で



阿部がいなくなった、あの騒動から2日。

やっぱり少し気になって、仕事終わりに花井の家を訪れてみた。

でも、そこにいたのは花井たった1人で。


















「‥‥そっか。阿部、出て行ったんだね」
「ああ」
「引き止めなかったんだ、花井」
「‥‥引き止めて、どうするんだよ」


気丈に笑って言う花井の表情にはどこか哀しみのような、焦りが含まれている気がした。元々顔に出やすい人だから、すぐわかる。



「だってあいつ、何の言い訳もしないんだぜ。違うなら否定すりゃ良いのに、黙ったままで。‥‥もしかしたら、最初っからこれが目的でこっちに、っ」
「‥‥花井、それ以上言ったらこんなんじゃ済まないから」


ぱしっと綺麗に入った平手打ちの所為で赤くなった花井の頬を見つめる。そこではっとしたのか花井は俯いて、自嘲気味に笑った。


「‥‥ごめん」
「許さない」
「‥‥‥」
「阿部は引き止めて欲しかったんだよ。花井に疑われて哀しくて、言葉も出なかったんだよ。そんなことも気付かないで、自分のことばっかりで、何が恋人?‥‥何が結婚だよ、バカ!!」


不意に込み上げて来たものを抑えることができなくて、それは涙になって零れた。
出て行った阿部の気持ちを、その寂しげな表情を考えるだけでいたたまれなくなる。

こんなに好きあってる癖に、なんで、この2人は。





「ごめんな、栄口」
「‥‥オレじゃなくて、阿部に謝って」


オレがそう言ったら、花井は頷いた。それはいつもの強い瞳で、迷いの色は感じない。
オレは笑った。涙はそのままで。






「電話してみようか。もう落ち着いてるだろうし、出てくれるかもしれない」
「あ、オレじゃ出づらいだろうから栄口掛けてもらって良いか?」
「ん、わかった」


携帯を出して、阿部の番号に掛ける。しばらく呼び出し音を聞いたけど、阿部は出そうにない。


「‥‥出ないな。花井掛けてみたら?待ってるかも」
「うん」


携帯を取りに立ち上がった花井を見て、安心と共に少し、不安も出てくる。

阿部は今、どこにいるのだろう。














電話を掛けている花井の手は、この前よりもずいぶん落ち着いていて。

オレはただただ祈っていた。


阿部が、寂しがっていませんように。

どうかあの人に、会っていませんように。




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あきゅろす。
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