死ねば会えるだろう(花阿) 阿部。そう、誰かが呼んでる。 朦朧とした意識の中で、その声だけがはっきりと聞こえた。 「阿部、おい阿部!」 「‥あ‥‥、っ」 怒鳴るように名前を呼ばれたと思ったら、パチンと頬を叩かれた。 一気に頭が冴えてくる。 「‥‥はな、い‥」 「しっかりしろよ」 「ん‥‥‥‥」 頷いて、目の前のシャツの胸元に寄り掛かる。視界の隅でその白が自分の紅で汚れるのが見えた。 「もう切んなって言ったろ」 説教されているというのに、ひどく落ち着く。まるで子守唄のように眠りを誘う。 違う。安心するんだ。この声に、この腕に、この人間に。 もう切るな。何回言われた台詞だろうか。その度に彼は説教する癖に、一向に俺を見捨てようとはしない。 それどころか以前よりもっと気に掛けてくるようになった。 それはいつでもどこでも衝動的。 家だろうと学校だろうと人がいようがいまいが構わない。 まるで発作。 例えば学校で。 すぐに女子の悲鳴や教師の制止の声が聞こえてくる。でも、俺が欲しいのはそんなんじゃない。 それを望んでこんなことしているんじゃないんだよ。 俺は知ってる。 教室中パニックになってるのに彼は真っすぐ俺の所に来て、怒るでも悲しむでもなく、ただ1度頬を叩くのだ。名前を呼べるまで落ち着いたらしっかりと抱き締めて、保健室まで説教しながら連れて行ってくれる。 知ってるんだ。 花井は俺の意識を保たせる為にずっと話し掛けていてくれること。痛いくらい腕を握るのは止血の為だって。 迷惑をかけてるのは重々承知。 それでも辞められない、衝動。 だって、今この瞬間、彼は俺だけのものだから。 死ねば会えるだろう (其の為に死に逝くのさ、何度でも何度でも) +−+−+−+−+−+ 自傷すればすぐ駆け付けてくれるのが嬉しくて。 [*Back][Next#] [戻る] |