2人で1本(花阿)
「やまねーなあ」
その日は朝から雨だった。午後になっても止まないそれに部活は休みとなり、軽くミーティングをして解散したのは随分前のことだったが、忘れ物をした阿部に付き合って花井もまだ校舎内にいた。
しんとした廊下に雨音が静かに響く。それと、2人分の歩く音。
「今日、降水確率90%つってたからな」
「まじか。‥‥あー今日オレ歩きなんだった」
朝の天気予報で見た情報を伝えると明らさまに嫌な顔をして、靴を履く阿部。自分も多少朝の雨が染み込んで湿っているスニーカーを履いて、傘立てに向かった。
「あ」
突然、阿部が声を上げる。
何事かと思ってそちらを見ると、じっとこっちを見たままの彼が口を開いた。
「花井の傘は盗まれました」
「‥‥はあ?」
いきなり何を言い出すのだ。だって今目の前にあるこれは間違いなく花井の傘(親に無理矢理書かれたイニシャルがはっきりとある)だというのに。
「ほら、帰んぞ」
「え?ちょ、まだ傘とってねえから!」
「だからお前のは盗まれてもう無いの」
ぐいぐいと腕を引かれて、昇降口を出る。何だというのだ、ずぶ濡れで帰れと言うのかこいつは。
頭を抱える花井の横で、ばっと阿部が彼の傘を開く。水を踏む音がしたと思ったら、未だ掴まれたままの腕も前に出た。
(あー‥‥濡れる)
半ば諦めた頭でそんなことを考えて、少しばかりの覚悟を決める。
しかし、いつまで経ってもシャツに水が染みる感じがしない。不思議に思って上を見ると、傘が半分だけ目に入った。
「‥‥阿部?」
「傘を盗まれた可哀相な花井に、やさしーいオレが傘を半分貸してやるよ」
ニヤリ、といつもの笑みを浮かべた阿部が言う。ああ、わかった。そういうことか。
「素直じゃねーのな」
「何のこと?」
何食わぬ顔で返されて苦笑する。
こんなんだったら、たまには雨も悪くないかな、なんて。
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相合い傘って可愛いですよね。
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