Lily‐リリー(ルッチ×オリジ)中編
ルッチの居ない生活は、以前と同じ何の変化もなく淡々と過ぎていく。
もう完全に諦めていた。
幸せな夢だったのだと。
カラァン‥‥
久しぶりに聞く、客が来たことを知らせる為ドアに付けられているベルの音。
そちらを何の感情もなくなってしまった瞳で見やる。
「‥!‥‥ルッチ!」
ドアから入ってきた姿を見て、咄嗟にその名を呼んでいた。
ルッチが帰ってきた。
「久しぶりだな」
何で、何故。
涙で前が見えない。
「何故泣く?」
「‥ルッチ‥会いたかったっ‥‥」
傍へ歩み寄る彼の腕に縋り付き、子供のように泣く。
格好悪いなぁ、もう。
ルッチがいないとこんなにダメな奴なんて。
「すまなかった。仕事が忙しくてな」
優しく撫でられれば、理由なんかどうでも良くて。
彼が帰ってきた。
ただそれだけで良かった。
ルッチとの生活が再び始まり、幸せに包まれた日々が訪れる。
唯一前と違うのは、バー以外の場所で会うようになったという事。
お互いの家に行ったりするのではなく、安い宿をとって2人で過ごすだけ。
それは1日だったり、はたまた一晩だったり。
とにかく、2人で居られれば何でも良かったのだ。
そんなある日、ルッチがまたバーで待ち合わせないかと言ってきた。
最近あまり前のようにバーで会うことが無くなってきたので却って新鮮に感じるかも、と承諾した。
少し早めにバーに入り、彼を待つ。
約束は7時。
「遅いな‥仕事長引いてるのかな‥‥?」
カラン、カランとグラスの中の氷を鳴らし、1人暇を持て余す。
そのうち、待ちくたびれて眠ってしまっていた様で。
ガタンッ!!
何かが勢い良くぶつかるような音で目が覚める。
「‥‥‥?」
何事かと周りを見るが、何もそれらしい物はない。
バーテンダーが苦笑いを零しながら酔っ払いか何かがドアにぶつかっていったのだろうと言う。
よくあることだ、と。
時間はすでに9時を回っている。
遅過ぎる。
妙な胸騒ぎと共に、ルッチに何かあったのではという不安が頭を過る。
と、その時再びドアの向こうからガタ、という音。
気付けばバーテンダーが止めるのも聞かずにドアの前へ足を向けていた。
‥‥ガチャ。
少しだけ恐いと思う自分がいたが、気にもとめず。
「‥‥ルッチ?!」
ドアを開いたそこには何もなく、ほっと胸を撫で下ろした、その視線の先。
地面に横たわる彼の姿。
苦しそうな、不規則な呼吸をし、目蓋をきつく閉じ。
暗くてわからなかったが、地面が赤く濡れていた。
怪我らしいものは見当たらなかったが、確実にそれは彼の血液。
「‥ぽー‥‥」
少しの間茫然と立ち尽くしていたが、彼の愛鳩の鳴き声にはっとなり。
「ルッチ!ルッチ?!」
肩に腕を回しそっと抱き起こすと、結構な熱があることに気付く。
「‥ッく、は‥‥‥」
「大丈夫!?」
「‥リ‥リー‥‥?」
虚ろな視線を刹那、こちらに向けるとルッチはそれだけ言って目を閉じた。
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