スピリティド
act.4
「……あまり、関心しないな」
オルハンの驚きの顔は、いつの間にか少し悲しそうだった。
「この世で人間は最下位。すべての行動に制限が付くんだ。帝国に逆らうようなことがあれば、即行で死刑だよ。そんなこと、キミでも知ってるよね? カデシュ様が来なかったら、キミやその子ども、村はどうなっていたと思う?」
そうだった。魔族は、テミルを処刑しようとしただけでなく、村の大切な出荷品である、葡萄棚を燃やした。飛び出したアドリーンまで手にかけようとした。
彼らの瞳に、躊躇いの色はなかった。
「ごめんなさい……」
なぜ謝ったのか、何に謝ったのかはわからない。自然と口から出てきたのは、謝罪の言葉だった。
「……よく、頑張ったね」
ふとオルハンは、アドリーンの頭を撫でた。
「処刑の瞬間に飛び出すなんて、簡単に出来ることじゃないよ。まあ、する人間はいないだろうけどね」
ふふっと笑って、オルハンは続けた。
「今度やる時は、シロナさんに蹴りでも入れといてよ」
「もうっ。オルハンさんったら」
笑顔でそんなをことを言う彼は、将軍ではなく、人間の顔だった。
「だけどね、アドリーンちゃん。よく覚えといて。むざむざ命を捨てるのは、勇気ある行動じゃない。死ぬことは簡単だよ。逆に生きることは苦しいし難しい。それを精一杯成してこそ、勇気があると言えるんじゃないかな。……ま、これは誰かさんからの受け売りなんだけどね」
「はい──」
「どうだ、オルハン」
ずっと黙っていたカデシュが口を開いた。何を訊こうとしているのかを察し、オルハンは答える。
「はい。とても素直そうで、いい子ですね。肝も座ってますし」
そしてカデシュに向き直る。
「で、カデシュ様。どうされたいんですか?」
「お前に、この娘を預ける」
「……えぇぇぇぇっ!?」
一瞬わからなかったアドリーンだが、その意味がわかり、思わず叫ぶ。
「預けるってどういうことですかっ。私、カデシュ先生の弟子ですよっ」
「やはり、弟子はとらない」
冷たく言い放ち、カデシュは踵を返した。ゆっくりと門の方へ歩いていく。
「で、でも、魔法をもっと上達したいですしっ!」
「魔法なら、オルハンの下でも学べるだろう」
「先生っ!」
確かにそうだ。カデシュには劣るも、オルハンは人間ながら魔道将軍を務めているのだから。魔法に関しての知識は最高だ。だが、それでも──
「オルハン。無駄だと感じたら、即行リリザの村へ送り帰せ」
「え、あの、カデシュ様……」
オルハンの言葉を最後まで聞かず、カデシュの姿は掻き消えた。
「……リリザの村って、どこにあるんですか」
カデシュがいた辺りを見つめながら、オルハンはそう呟いた。
[*前へ][次へ#]
無料HPエムペ!