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スピリティド


act.3

「……私はオルハン・リグレ。よろしくね」

少し間が空いてから、彼は名乗った。

今度驚くのはアドリーンの方だった。なぜなら、彼には名字がある。

名字があるのは、王族や貴族、そして帝国で働いている者の中でも、かなり上の地位にある者だけだ。

王族や貴族は魔族しかいない。だとすると、彼は後者ということになる。

「ゼークス帝国が誇る、三将軍のひとり、魔道将軍だ」

カデシュがそう付け加えた。

「そんな大したもんじゃないですよ。私は人間ですから」

普通、魔族の血を引く者の方が魔術に長けている。その血が濃いほど、魔力は強いと言われているが、もちろん人間には魔族の血など混じっていない。

生まれつきのハンデがあるにもかかわらず、オルハンは彼らの上をいってるのだ。

「そういえば、カデシュ様。リリザの村で子どもの処刑を止められたそうですね」

ふとオルハンは、いきなりそんなことを言い出した。

「もうお前の耳に入っているのか」

「シロナさんから聞きました。言ってましたよ、『私が剣を振り下ろす瞬間に現れた』って。機嫌、めちゃくちゃ悪かったです」

笑顔を保ったまま、オルハンは言う。だが逆に、アドリーンは青ざめた。そして恐る恐るオルハンに訊ねる。

「あの……シロナさんって誰ですか?」

「ん? シロナさんは、五聖人の1人だよ」

「ご、五聖人!?」

オルハンの返答に、アドリーンはますます青ざめた。

五聖人とは、ゼークス帝国の中でも五柱と呼ばれる、皇帝を支える五人のことである。

 皇帝自ら指名した者しかなれず、四天王という側近がいない今、皇帝の最も身近な側近であり、懐刀。

(私、そんな人になんてこと言っちゃったんだろ……)

アドリーンは自分の行動に問題があったかと振り返ってみた。そんな彼女の思考を止めさせたのは、オルハンの言葉だった。

「カデシュ様が止める前にも、邪魔が入ったって聞きましたよ。帝国に逆らうなんて、まだそんなことする人間がいるんですね……」

そう言ったオルハンの顔は、嬉しげでもあり、悲しげでもあった。

「……オルハン。その邪魔した張本人は、このアドリーンだ」

「「え……?」」

カデシュの申告に、オルハンとアドリーンはそれ以上言葉が出なかった。

彼は驚いているのだろう。こんな子どもが、処刑の瞬間に飛び出してったことを。

だがアドリーンは別の意味で驚いていた。

人間とはいえ、オルハンは帝国の魔道将軍だ。一般の騎士とはわけが違う。

そんな人物に、帝国への反逆とも取れる行為を話して大丈夫なのだろうか──


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