スピリティド
act.2
「どこへ行くんですか?」
しばらく歩くと、カデシュは街道からそれた。
「知り合いの家に行く」
「知り合い……」
アドリーンは目の前に広がる森を見て、眉を顰めた。こんな森に、好き好んで住んでいるような者は誰もいない。
「アドリーン、こっちへ来い」
「あ、はい」
カデシュに呼ばれ、アドリーンは彼のそばへ寄る。と──
「わっ!」
自分の体が透けていくのがわかり、直後、視界が白く塗りつぶされたかと思うと、次の瞬間には、高い塀に囲まれた、大きな屋敷の前に立っていた。
辺りをよく見回す前にカデシュを見つけ、アドリーンは駆け寄った。
「カデシュ先生、今のは……」
「空間転移だ」
カデシュは懐から薄い本を取り出すと、それをアドリーンに渡した。
「なんですか?」
「基本ぐらいは学んでおけ」
アドリーンは表紙を見た。そこには『空間転移における基本指南書』と書かれていた。
「はいっ。頑張りますっ!」
アドリーンは本をポシェットにしまった。
それを確認もせず、カデシュは門をくぐった。アドリーンもそれに続く。
「立派な家だね、クラウサー」
「うん。こんな大きい屋敷は見たことないよ」
それはアドリーンも同じだった。屋敷は、村で1番大きな村長の家の何倍もあり、門から屋敷の入口にかけて緑が広がっている。
小さな村なら、この敷地にまるまる収まってしまうのではないだろうか。
「あ、カデシュ先生。ここに知り合いの方が住んでいるんですか?」
「ああ。私の知人である魔法使いの家だ」
『魔法使い』。その言葉に、アドリーンは反応した。こんなに大きな屋敷に住んでいるのだ。きっと、すごい魔法使いに違いない。
「カデシュ様!」
向こうの方から、小走りに駆け寄ってくる姿が見えた。
「わざわざ訪ねて来てくれて感謝します」
そばまで来ると、その人物はそう言った。
まだ若い男だ。エメラルドグリーンの髪。同じ名の宝石のように、それは美しく輝いている。
男はアドリーンを見た。察して、カデシュは紹介する。
「……弟子のアドリーンだ」
その瞬間、男の顔に驚きの表情が浮かんだ。そして、アドリーンとカデシュを交互に見る。
「はじめまして、アドリーンです」
そんな男の様子に疑問を持ちながらも、アドリーンは丁寧に礼をした。
[*前へ][次へ#]
無料HPエムペ!