スピリティド
act.1
「お待たせしましたっ」
必需品を詰め込んだトランクを持ち、ポシェットを肩にかけ、アドリーンは家を出た。
家の前にはカデシュが待っていて、アドリーンが大切そうに持っているクラウサーに目をやった。
「その箒はなんだ」
「クラウサーっていいます。私の相棒の箒です」
「必要ない。置いていけ」
ローブを翻し、カデシュは村の出入り口に向かおうとした。
「え、でも、移動するのにいつも一緒で……」
だが、足を止め、振り返ったカデシュの視線は冷たかった。
「お前には最初に、『空間転移』を教えようと思う。覚えれば、一瞬で移動できる。だから箒は必要ない」
「必要ですっ。クラウサーは、私の相棒で──」
「それが必要と言うのは、空間転移を覚える気はない、ということか?」
「覚えます、覚えたいですっ。でも私、クラウサーがいないと不安です。お願いしますっ」
懇願するアドリーンを見、その視線をクラウサーに向け、カデシュは踵を返した。
「……勝手にしろ」
吐き捨てるように言うと、門をくぐっていってしまった。
「ありがとう、アド」
カデシュに聞こえなくなってから、クラウサーは言った。
「ううん。だってホントのことだもん」
にっこり微笑んで、そう言うと──
「アドー!」
名前を呼ぶ声がする。振り返ると、村中の人々が、集まっていた。
「アド、頑張って!」
「しっかりやれよな」
「すごい魔法使いになってよ」
それぞれが、アドリーンに応援の言葉をかける。
「アド!」
テミルがパタパタと走ってきた。
「さっきは、ありがとっ。これ、裏の森の奥で見つけた花。アドにあげる! だから、頑張って!」
白い小さな花を受け取り、アドリーンは微笑んだ。
「うん、ありがとう。頑張るよ!」
それを大切に、ポシェットの中にしまう。
「みんな、元気でね!」
アドリーンは人々に手を振り、門をくぐった。
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「それにしても、カデシュ様が百年に一度来る大賢者だとは思いませんでした」
街道を歩きながら、アドリーンは言った。
「何をしにリリザの村へ?」
「探し物があるからだ。今回は見つからなかったが」
「そうなんですか……あ」
ふと思い出したかのように、アドリーンは言った。
「そういえば、カデシュ様のこと、何て呼べばいいですか? やっぱり弟子だから、カデシュ師匠とか──」
が、言った瞬間、カデシュが振り向いた。その顔があまりに冷たくて、アドリーンは口を噤んだ。
「……その呼び方はやめろ」
「す、すみませんっ。じゃあ……カデシュ先生?」
言い直すと、カデシュはまた前を向き、歩き出した。
「なに、あの態度」
少し距離が空いてから、クラウサーは言った。
「クラウサー、先生のこと悪く言わないの」
彼をたしなめ、カデシュの背中をアドリーンは黙って見つめた。
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