スピリティド
act.4
その時、凄まじい爆発の音と、悲鳴が上がった。
「な、何!?」
アドリーンは驚いて顔を上げ、そして、息を呑んだ。葡萄棚が紅蓮の炎に包まれて、火の粉を巻き上げていた。
「大変!」
「あ、待ってよ!」
アドリーンはクラウサーを放り出して駆け出し、その後をクラウサーが慌てて追った。
燃え上がる葡萄棚の前に、村長の他、数人の男達が集まり、独特な服装で統一された者達と向き合っていた。
──彼らが着ているそれは、帝国の制服で、全員が耳が尖っている。魔族である、その証だった。
その中で、他の魔族とは格好が違う、一際目を引く男がいた。
男はずいぶんと若く見える。腰まで届く真っ白な髪で、両サイドの髪は二つに束ねている。瞳は、まるで氷のようだった。
そして、男の傍らで、体を押さえつけられている少年──
「テミル!」
アドリーンはそう叫んで駆け出し、村長が止める声に耳も貸さなかった。
テミルを押さえつける軍人の手を払いのけ、彼を庇うように抱きしめた。
アドリーンの腕の中で、テミルは震えていた。
「聞け、人間ども!」
白髪の男は燃え上がる葡萄棚を背に、村を見回すようにした。
「このガキは、我らが同士に反逆とも取れる行為を犯した! よって、このガキに制裁を加える!」
「そんな!」
アドリーンは叫んだ。
「テミルが、いったい何をしたっていうの!」
アドリーンの問いに、テミルは青ざめた顔で答えた。目には涙を浮かべている。
「僕、村の入り口で、石を投げて遊んでたら……ちょうど正門を入ってくるこの人達に当たって……謝ったんだけど……」
「……謝っているのなら、許してあげてください。もしかして……怪我しました……?」
「関係ない。我らに害をなす、すべてが禁忌だ」
そう答え、白髪の男は長剣を鞘から抜いた。周りから悲鳴が上がる。恐怖で体が動かない。
そして、長剣が頭上に振り下ろされる。
アドリーンは、きつく目を閉じた。だが──
(……?)
なぜか、時間が止まったかのように、何も起きなかった。
アドリーンはそろりと目を開き、そして、見た。
白髪の男と自分の間を隔てるように、一人の男が立っているのを。
「……まさか、あなたが現れるとは」
憎しみを隠そうともせず、白髪の男は腹の底から搾り出すようにそう言うと、光の柱に包まれ、部下共々、その場から掻き消えた。
魔術を使う上級者だけができるといわれている、空間転移だった。
「……賢明だな」
男はそう呟くと、指を鳴らした。すると男の持っていた剣は、空気に溶けるように姿を消した。
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