スピリティド
act.4
「今は、助けてもらえない。下手に出て行けば、捕まるよ」
「で、でも、あの人はお前の師匠だろ? 弟子に危害は加えないんじゃ……」
レオの言葉に、しかし、ソアラは首を振った。
「人間に容赦はしない……それが帝国に仕える者の当然な行動だよ。ましてやオルハン先生のように上に立つ者が人間に対して甘かったら、下への示しがつかない」
「弟子だから、とか関係ねぇって言うのかよ!?」
「そうだよ。私情で任務を怠るなんて、オルハン先生は絶対しない。そんなことしたら、魔道将軍の地位を追われる。そうしたら、ベルニベスの間引きが再開されるから……」
「どういうこと?」
アドリーンは眉を顰めた。ベルニベスとは、世界の西──ウエストエリアにある『水の都』と呼ばれる街だ。
「アドやレオも知ってるよね? 帝国に貢献すると、出身地の間引き量が減るって」
2人は頷いた。だからこそ、アドリーンは魔法の腕を磨こうとカデシュに弟子入りしたのだ。
もっともリリザの村は、税穀の他に定期的に物資を帝国に納めているため、間引きの心配はないが、それでも村民には相当な負担になっている。
「ベルニベスは、オルハン先生の生まれ育ったとこなんだって。実は、五聖人や三将軍ほどの位になると、出身地の間引きがなくなるんだよ」
「「間引きがなくなる!?」」
「うん。だからベルニベスは帝国に怯えることがなく、平和で綺麗な街並みを保ってるんだよ。もちろん、階級制度があるから、行動は制限されるけど……」
「クソッ。そんな事実があるなら、あの人はどうしようもねーじゃんか!」
レオは強く、唇を噛んだ。と──人々が急にざわめき、振り向くと、光柱が出現していて、その中からユリアーネが現れた。
「リグレ将軍」
現れるなり、彼の名を呼んだ。オルハンは頷き、杖を構える。
「──サーチ」
淡い緑色をした魔法陣がオルハンの足元に現れ、彼は唱えた。その瞬間、強い風が人々の間を吹き抜けた。
「どうですか?」
ユリアーネは訊ねるが、オルハンは首を振るだけだった。
「……そう。キアラン家もナメられたもんだね。──引き上げです」
溜め息を吐き、ユリアーネは冷たい瞳で人々を一瞥した後、部下にそう命じると光の柱に包まれ、その場から掻き消えた。オルハンや兵士達も次々と従い、その姿が消えると、歓声が広場に轟いた。
「ふぅ〜、ヒヤヒヤしたわ」
「帝国の奴らが兵士を引き連れて街に来るなんて何年ぶりだったか」
「本当ですね。しかし、バレなくて良かったですよ」
「バレなくて良かった、って!?」
人々の会話に気になる発言を聞き、周囲の大声に負けないよう、大きな声でレオが訊くと、近くにいた男性がその意味を話してくれた。
「南方司令部から逃げ出した奴を、俺達は匿ったんだ」
「なんだって!? もし見つかったら──」
「帝国の掟の秩序に反してるってのは、わかってる。でも、道義的には正しいと思わないかい?」
「逃げてきた人は、他の場所へ移送したさ。調べられても大丈夫なように」
「みんなで黙っていれば、なんとかなるぞ」
「それに、この街は帝国も手出ししませんし」
口々に言う人々の顔には、強い意志が浮かんでいるようだった。
「すげーな、おい」
「うん……っ」
帝国に対してまったく怯える様子がなく、一致団結する彼らに、アドリーンは感心してしまった。
そんな中、ソアラだけが、何かを考えているようだった。
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